オンデマンド連続講演会「イスラームにおける聖性の継承:預言者、聖者の血統と聖遺物」(Sophia Open Research Weeks 2023企画)

上智大学イスラーム研究所と京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターは11月13日(月)/20日(月)~12月3日(日)に、オンデマンド連続講演会「イスラームにおける聖性の継承:預言者、聖者の血統と聖遺物」(Sophia Open Research Weeks 2023企画)を開催します。

【プログラム】
企画立案 赤堀雅幸(上智大学総合グローバル学部教授、イスラーム地域研究所長)

11月13日(月)公開
1. 森本一夫(東京大学東洋文化研究所教授)
「世界に広がる預言者ムハンマドの一族」
2. 新井和広(慶應義塾大学商学部教授)
「インドネシアにおける預言者ムハンマドの一族:高貴な血統を持つ生身の人間」

11月20日(月)公開
3. 三沢伸生(東洋大学社会学部教授)
「オスマン帝国とイスラームの聖遺物」
4. 小牧幸代(高崎経済大学地域政策学部教授)
「南アジア・イスラーム世界と聖遺物信仰」

【問い合わせ先】
上智大学イスラーム地域研究所:sias-co@sophia.ac.jp

*本講演会は、JSPS科研費 JP19H00564、JP21KK0001、JP22H00034 および日本私立 学校振興・共済事業団学術研究振興資金の助成を受けた研究の成果です。

詳細はhttps://dept.sophia.ac.jp/is/SIAS/achievement/2023/sorw_2023.htmlへ。

ウスキュダル大学ジョイントセミナー “Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”報告

【日時】8月28日(月) 午前10~19時
【場所】トルコ共和国イスタンブル市、ウスキュダル大学ネルミン・タルハンホール

京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターとウスキュダル大学スーフィズム研究所が連携して遂行中の国際共同プログラム「スーフィズムの総合的研究-思想・文学・音楽・儀礼を通して」(JSPS国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))課題番号21KK0001、2021-26年度)の一環として、“Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”と題したジョイントセミナーが開催された。
本ジョイントセミナーは、上記共同研究「の趣旨に基づき、以下の四つのトピックに分かれて行われた。

1. 第1セッション:“Mystical Thought of Sufis”(スーフィズムの思想的側面)
2. 第2セッション:“Literature of Sufism”(スーフィズムの文学的側面)
3. 第3セッション:“Sufi Music”(スーフィズムの音楽的側面)
4. 第4セッション:“Ritual of Sufism”(スーフィズムの儀礼的側面)

プログラムは以下のとおりである。

Opening Session
Welcoming Speeches: Cemalnur Sargut
Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
“Aim and Scope of the Joint Research ‘Comprehensive Study of Sufism: Through Metaphysics, Literature, Music, and Rituals”
Mahmud Erol Kılıç, Ph.D., Prof.
Hikmet Koçak, MD. Prof.

Session1Mystical Thought of Sufis
Chairperson: Kenan Gürsoy, Ph.D., Prof.
Petek Kutucuoğlu, MA.Stu.
“Ahmed Avni Konuk’s Mathnawi Commentary and the Concept of Predisposition”
Azusa Fujimoto, Ph.D.-C.
“New Spirituality and Sufism in Turkey: Focusing on Western Interpretations of Mawlana”
Reşat Öngören, Ph.D., Prof.
“Dimensions of Sufi Thought in Mawlana Jalal al-Din Rumi”
12.45-13.00 Q&A

Session 2 Literature of Sufism
Chairperson: Masayuki Akahori, Ph.D., Prof.
Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
“Arts of Literature, Music and Rituals in Buddhism”
Emine Yeniterzi, Ph.D., Prof.
“Mawlana Jalal al-Din Rumi’s Influence in Turkish Sufi Literature: Stories from Mathnawi”

Session 3:Sufi Music
Chairperson: H. Dilek Güldütuna, Ph.D., Asst. Prof.
Manami Suzuki, Ph.D., Asst. Prof.
“Ney in Mevlevi: Forming the Religious Specificity through the Image and Practice”
V. Emre Ömürlü, Ph.D., Prof. (Ph.D.-C)
“Mawlawi Collations (Muqabalah) in Mawlawi Rites and Types of Practicing Dhikr in Some Tariqas”

Session 4:Ritual of Sufism
Chairperson: Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
H. Dilek Güldütuna, Ph.D., Asst. Prof.
“Wayfaring (Sayr wa Suluk) Symbolism in Sama’ Ritual”
Masayuki Akahori, Ph.D. Prof.
“Reviewing Anthropology of Sufism: Changing Perspectives”
F. Cangüzel Güner Zülfikar, Ph.D., Asst. Prof.
“Mawlawi-khanas as Civilized and Civilizing Spaces”

General Discussion:
Towards a Comprehensive Understanding of Sufism
Chairperson: F. Cangüzel Güner Zülfikar, Ph.D., Asst. Prof.
以下、紙幅の関係もあり、日本側発表者に絞って、発表の梗概を紹介したい。本ジョイントセミナーは、同時放映されると同時に、ウスキュダル大学スーフィズム研究所のホームページ上で、全体の発表を視聴することができる。(https://www.youtube.com/watch?v=IiguSwELHak)

第1セッションでは、報告者が“New Spirituality and Sufism in Turkey: Focusing on Western Interpretations of Mawlana”という題目で発表を行った。最初に信仰の新しいあり方である「新たなスピリチュアリティ」に関する既存研究を提示し、トルコにおける「スピリチュアル」な実践の広まり、宗教団体の反応、若者の宗教離れを考察した。加えて、西洋で人気のある非学術的で「スピリチュアル」なスーフィズム解釈がトルコでも広がり、特に若者層に受容・消費されている点を指摘した。最後に、「ユニバーサル・スーフィズム」の概念を取り上げ、トルコにおける伝統的なスーフィズムと並存している「スピリチュアル」なスーフィズムの形態を提唱した。

第2セッションでは、当センター長である東長靖が“Arts of Literature, Music and Rituals in Buddhis”という題目で発表を行った。まず、主要な三大仏教(上座部仏教、大乗仏教、金剛乗教)について概説したのち、浄土教とキリスト教、さらに禅宗とメヴレヴィー教団の類似点を指摘した。次に、言葉を介さない「以心伝心」を意味する拈華微笑と神秘体験との関連性に加え、仏教とスーフィズムの文学的な共通点として酔人の言葉であるシャタハートと禅語録について説明した。最後に、スーフィズムと同様、仏教にも詩(和讃)、音楽(ご詠歌)、儀礼(踊念仏)があることを映像で提示し、諸宗教の普遍性について論じた。

第3セッションでは、当センターの首席上級研究員である鈴木麻菜美が“Ney in Mevlevi:
Forming the Religious Specificity through the Image and Practice”という題目で発表を行った。スーフィズムを音楽学の観点から分析した本発表は、忘我に導くための音楽、ズィクル(神への唱名)、身体動作の三つに焦点を当てた。始めにコソボのハルヴェティー教団のズィクルの映像を紹介し、この儀礼では打楽器が主要な楽器であり、信者の足踏みや上下運動、短い韻律が特徴的であると述べた。続いて、コンヤのメヴレヴィー教団のセマー(旋回舞踊)の映像を提示し比較した。この儀礼ではネイ、カーヌーン、ウード、クドュムが主要な楽器であり、曲は神秘詩に基づき、音楽はオスマン宮廷音楽の理論に近い要素を有する長い韻律と拍節を持つ点などを解説し、二つの教団における楽器の音声的特徴と身体動作との関係を指摘した。

第4セッションでは、上智大学教授の赤堀雅幸が“Reviewing Anthropology of Sufism: Changing Perspectives”という題目で発表した。人類学的な視点からスーフィズムの儀礼研究の方法論を概観した本発表はまず、心理人類学的アプローチの背景を紹介し、19世紀の研究において儀礼はトランス/エクスタシーや変性意識状態といった用語を通じて理解されてきたことを説明した。次に、通過儀礼アプローチの構造分析に関連する既存の研究に触れ、コミュニティ・ベースのアプローチにおいて「コミュニタス」の概念を中心に議論した。最後に、規律訓練としての儀礼論について、日本の伝統的な「修行」の概念を紹介し、この概念は身体と精神の両面の鍛練を指すため、「儀礼」よりも「修行」という言葉がより適切である可能性を示唆した。

今回のジョイントセミナーは、従来分離されていたイスラーム研究と人類学研究を結びつけると同時に、知識人エリート層による神秘哲学と人々の実践とのギャップを埋める試みを行った。それぞれの発表では、形而上学に限らず、思想的な視点から身体実践に至るまで多様なトピックが取り上げられた。特に日本人研究者側からは、テクスト読解などの古典的な研究手法に限定されない、新たなスーフィズム研究のアプローチを提供できた。この点において、今回のジョイントセミナーはトルコと日本のスーフィズム研究における新たな一歩として意義深いセミナーであった。

(藤本あずさ)

2023年8月28日 ウスキュダル大学ジョイントセミナー “Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”を開催しました

京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターとウスキュダル大学スーフィズム研究所が連携して遂行中の国際共同プログラム「スーフィズムの総合的研究-思想・文学・音楽・儀礼を通して」(JSPS国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))課題番号21KK0001、2021-26年度)の一環として、“Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”と題したジョイントセミナーを以下の通り開催しました。

ウスキュダル大学ジョイントセミナー “Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”
【日時】8月28日(月) 午前10~19時
【場所】トルコ共和国イスタンブル市、ウスキュダル大学ネルミン・タルハンホール                                                                                                                            【プログラム】                                                                                           Opening Session
Welcoming Speeches: Cemalnur Sargut
Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
“Aim and Scope of the Joint Research ‘Comprehensive Study of Sufism: Through Metaphysics, Literature, Music, and Rituals”
Mahmud Erol Kılıç, Ph.D., Prof.
Hikmet Koçak, MD. Prof.

Session1Mystical Thought of Sufis
Chairperson: Kenan Gürsoy, Ph.D., Prof.
Petek Kutucuoğlu, MA.Stu.
“Ahmed Avni Konuk’s Mathnawi Commentary and the Concept of Predisposition”
Azusa Fujimoto, Ph.D.-C.
“New Spirituality and Sufism in Turkey: Focusing on Western Interpretations of Mawlana”
Reşat Öngören, Ph.D., Prof.
“Dimensions of Sufi Thought in Mawlana Jalal al-Din Rumi”

Session 2 Literature of Sufism
Chairperson: Masayuki Akahori, Ph.D., Prof.
Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
“Arts of Literature, Music and Rituals in Buddhism”
Emine Yeniterzi, Ph.D., Prof.
“Mawlana Jalal al-Din Rumi’s Influence in Turkish Sufi Literature: Stories from Mathnawi”

Session 3:Sufi Music
Chairperson: H. Dilek Güldütuna, Ph.D., Asst. Prof.
Manami Suzuki, Ph.D., Asst. Prof.
“Ney in Mevlevi: Forming the Religious Specificity through the Image and Practice”
V. Emre Ömürlü, Ph.D., Prof. (Ph.D.-C)
“Mawlawi Collations (Muqabalah) in Mawlawi Rites and Types of Practicing Dhikr in Some Tariqas”

Session 4:Ritual of Sufism
Chairperson: Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
H. Dilek Güldütuna, Ph.D., Asst. Prof.
“Wayfaring (Sayr wa Suluk) Symbolism in Sama’ Ritual”
Masayuki Akahori, Ph.D. Prof.
“Reviewing Anthropology of Sufism: Changing Perspectives”
F. Cangüzel Güner Zülfikar, Ph.D., Asst. Prof.
“Mawlawi-khanas as Civilized and Civilizing Spaces”

General Discussion:
Towards a Comprehensive Understanding of Sufism
Chairperson: F. Cangüzel Güner Zülfikar, Ph.D., Asst. Prof.

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2023年度第1回「穏健イスラーム」研究会 報告

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」の2023年度第1回研究会(「穏健イスラーム」研究会)
【日時】2023年6月11日(日曜日)15:00~17:30
【場所】上智大学四谷キャンパス 2号館6階2-603教室 [ハイブリッド実施]

【報告1】東長靖「インドネシア調査報告」

1.インドネシア班読書会
The Ministry of Religious Affairs Republic of Indonesia, Religious Moderation, Jakarta: Research, Development, Training, and Education Agency, The Ministry of Religious Affairs Republic of Indonesia, 2020, xii+155 ppおよびその原本であるインドネシア語版を、3回に分けて輪読した。
[参加者](五十音順)新井和広、岡本正明、久志本裕子、高尾賢一郎、東長靖

2.インドネシア現地調査
[参加者](五十音順)岡本正明・高尾賢一郎・東長靖(現地からOman Fathurahman)
[期間]1/28-2/5(参加者によって前後あり):共同調査期間は2/3-2/4
[訪問先]ジャカルタ首都特別州
[主要日程]
1/30 Masjid Lautze(老子モスク。中国系のモスク。イマームに聞き取り調査)
1/31 Iik Mansur Noor氏(UIN[Universitas Islam Negeri、国立イスラーム大学]教授)訪問
2/01 Oman Fathurahman氏(UIN教授)訪問
2/02 UNUSIA(Universitas Nahdlatul Ulama Indonesia、インドネシア・ナフダトゥルウラマ大学、1999年創設)訪問(Dr. Fariz Alnizarと面談。教育研究について聞き取り)
2/03 UIN訪問(Conveyプログラム責任者 Ismat Ropi氏に聞き取り調査ののち、Oman Fathurahman氏からModerasi Beragamaについての概要の説明を受けて質疑応答)+プサントレン・アル=ハーミディーヤ(オマン氏が校長)に招かれ生徒たちと交流
2/04 前宗教大臣Lukman Hakim氏らから聞き取り調査
2/06 元ムハンマディア総裁のSyafii Maarifの思想に影響を受けたNPOを往訪、同団体が取り組んでいる若者を対象とした「脱過激化(deradicalization)」トレーニングや、インドネシア国内のキリスト教、仏教、儒教団体との交流の内容につき聴取

3.インドネシア副大統領京都大学来学
現副大統領のMaruf Amin氏が2023年3月8日に来学し、宗教間対話と穏健イスラームに関する講演を行った。本研究分担者の岡本正明が全体の司会を務め、研究代表者の東長靖はコメンテータを務めた。

なお、上記活動の概要については、平和中島財団「アジア地域重点学術研究助成」のウェブページに報告書を掲載している。

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【報告2】和崎聖日「現代ウズベキスタン・イスラームの本流:ムハンマド=サーディク・ムハンマド=ユースフの思想」

本報告は、拙稿(2021)「ムハンマド=サーディク・ムハンマド=ユースフの軌跡:ウズベキスタン・イスラームにおける非党派主義と中道主義の萌芽過程」(『アジア・アフリカ言語文化研究』(Journal of Asian and African Studies)102, 33-62)に基づき、その一部を紹介した。具体的には、ソ連解体後の中央アジアで最も傑出したイスラーム学者と数えられるウズベキスタン東部・アンディジャン出身の上述のムハンマド=サーディク・ムハンマド=ユースフ(Muhammad Sodiq Muhammad Yusuf, 1952-2015)を取り上げた。彼の出自は、クルアーンと預言者ムハンマドのスンナの遵守を特徴とすることで一般に知られるナクシュバンディー・ムジャッディディーヤの導師に連なると言われる。ムハンマド=サーディクは、弱冠 37 歳にして中央アジア・カザフスタン・ムスリム宗務局の第 4 代ムフティー(muftī: 宗務局長)(在任期間 1989-1991)、ならびにソヴィエト連邦最高会議の人民代議員に選出された経歴をもつ。また、ソ連共産党第一書記であったミハイル・ゴルバチョフ(Mikhail Gorbachev, 1931-)(在任期間 1985-1991)の個人通訳を務めたことでも知られる。加えて、1991 年にはウズベキスタン・ムスリム宗務局の初代ムフティー(在任期間 1991-1993)にも選出された。彼の思想の支持者の広がりは、カザフスタンやタジキスタンなどの中央アジア諸国、そしてロシアにまでおよぶ。彼の思想に認められる特徴は、スンナ派イスラームの知と団結力を衰退させるイスラームの政治運動と党派化の拒否、ならびに中道主義(wasaṭīya: 中庸思想)の 2 点にあると考えられる。本報告は、これらのうち後者に焦点を当てるものであった。そのうえで、ムハンマド=サーディクの家族文化と活動の軌跡の一部、説教の内容を主に考察することにより、第 1 に彼の思想を上記のように特徴づけることの妥当性を検証し、それが社会主義圏でのイスラーム学者らとの交流を契機に強化されたことを明らかにした。第 2に、彼の思想を現代イスラーム世界の知的権威たちの思想潮流に位置づけることを試みた。本報告での結論の一部をここに記せば、ハナフィー革新派の学者にして穏健なイスラーム主義者であったムハンマド=サーディクの思想が現代イスラーム世界の知的権威たちの中で、カラダーウィーなど、ムスリム同胞団の穏健派の系譜に位置づけられる可能性が高い、もしくはこの系譜と親和性が高いことを明らかにした。この思想潮流こそが、体制と民衆の双方の側から絶大な信頼と支持を受けている現代ウズベキスタンのイスラーム潮流の本流だと考えられた。

第11回目フランス国立科学研究センター(CNRS)・上智大学イスラーム地域研究所(SIAS)・京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)ジョイントセミナー “SUFISM AND SAINT VENERATION PAST AND PRESENT” 報告

第11回目フランス国立科学研究センター(CNRS)・上智大学イスラーム地域研究所(SIAS)・京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)ジョイントセミナー “SUFISM AND SAINT VENERATION PAST AND PRESENT” 報告

第11回目となるフランス国立科学研究センター(CNRS)・上智大学イスラーム地域研究所(SIAS)・京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)のジョイントセミナーが9月1日にパリで開催された。2019年以来の対面開催であり、参加者たちが有意義な意見交換を行える貴重な機会であった。発表者は日本側から4名、フランス側から2名である。発表プログラムに関して言えば、多岐にわたる話題が提示されたが、その中でも以下の発表が興味深く感じた。Makbule Nur Ayan氏(CNRS-CETOBaC)の発表は、トルコ共和国におけるアフマド・ヤサヴィー(1166年没)の政治的利用を演説等の分析から検討した内容であり、時代や論者によって異なるヤサヴィー解釈の変遷を追ったものであった。また丸山大介氏(防衛大学)の発表は、イスラーム主義者(Islamist)が “Ahl al-Dhikr” というタームによって、如何にしてスーフィーやサラフィー主義者の集団を包括しようとしていたかという試みを考察したもので、興味深い内容であった。セミナーを通じて質疑応答も盛んに行われ、歴史学・人類学・思想研究などの専門分野から様々な意見が出た。今回のセミナーは “Sufism and Saint Veneration: Past and Present” というテーマで開催されたが、これは単に研究対象の時代だけを指したものではなく、スーフィズム・聖者信仰研究の過去と現在を示し、新たな知見を提示するものであった。また、発表者の研究関心はそれぞれであるが、全体としてはスーフィー・サラフィーの関係性を問い直すような試みが多く取られていたことが特筆すべき点である。

(原陸郎)

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【日時】9月1日 9:30-16:30(フランス時間)
【場所】Collège de France – Centre d’études ottomanes Salle Claude Lévi-Strauss, 52 rue du Cardinal Lemoine, 75005 Paris

【プログラム】
9:30-9:45 Alexandre PAPAS (CNRS-EPHE) & Thierry ZARCONE (CNRS-GSRL): Introduction

9:45-10:15 HARA Rikuo (Kyoto University): “Traditionalist Ways of Dhikr: The Case of Ibn Qayyim al-Jawzīya”
10:15-10:30 Rachida CHIH (CNRS-CETOBaC): Chair, Q&A

10:30-11:00 KONDO Fumiya (Sophia University): “From Festivals to Anniversaries: Recent Reconstructions of Mawlid’s Space in Egypt”
11:00-11:15 Rachida CHIH: Chair, Q&A

11:15-11:30: Break

11:30-12:00 UCHIYAMA Chie (Sophia University): “Destructuring the Discours of ‘Islam noir’ Persisting in Senegalese Islamic Education”
12:00-12:15 Thierry ZARCONE: Chair, Q&A

12:15-13:45 Lunch

13:45-14:15 Clara GAUTIER (Université Paris 1 Sorbonne): “Burns and scars: representations of Bektashi self-mutilations in illustrated manuscripts and in various ‘Collection of Ottoman Costumes’ (15th-18th centuries)”
14:15-14:30 AKAHORI Masayuki (Sophia University): Chair, Q&A

14:30-15:00 Makbule Nur AYAN (CNRS-CETOBaC): “Khoja Ahmad Yasavi in Turkey’s political discourse between 1998 and 2022”
15:00-15:15 TONAGA Yasushi (Kyoto University): Chair, Q&A

15:15-15:30: Break

15:30-16:00 MARUYAMA Daisuke (National Defense Academy of Japan): “Who are Ahl al-Dhikr?: Political Appropriation of Sufism and Saint in Contemporary Sudan”
16:00-16:15 Alexandre PAPAS: Chair, Q&A

16:15-16:30 AKAHORI Masayuki & TONAGA Yasushi: Conclusion

Convenors:
Akahori M., Tonaga Y., C. Gautier, Kondo F., A. Papas, Suzuki M., Th. Zarcone

Sponsors:
Institute for Islamic Area Studies (SIAS)
Center for Islamic Studies-Graduate School of Asian and African Studies (KIAS)
Kenan Rifai Center for Sufi Studies (KR)
Groupe Société, Religion et Laïcité, UMR8582 – CNRS (GSRL)
Islam médiéval, UMR8167 – CNRS (Orient et Méditerranée)
Centre d’études ottomanes, Collège de France (CEO)

SIAS/KIAS-CNRSジョイントセミナー “SUFISM AND SAINT VENERATION PAST AND PRESENT”を開催しました

京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターは京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)、上智大学イスラーム地域研究所(SIAS)、フランス国立科学研究センター(CNRS)との共催によるジョイントセミナー “SUFISM AND SAINT VENERATION PAST AND PRESENT”を、以下の通り開催しました。

【日時】9月1日 9:30-16:30(フランス時間)
【場所】Collège de France – Centre d’études ottomanes Salle Claude Lévi-Strauss, 52 rue du Cardinal Lemoine, 75005 Paris

【プログラム】
9:30-9:45 Alexandre PAPAS (CNRS-EPHE) & Thierry ZARCONE (CNRS-GSRL): Introduction

9:45-10:15 HARA Rikuo (Kyoto University): “Traditionalist Ways of Dhikr: The Case of Ibn Qayyim al-Jawzīya”
10:15-10:30 Rachida CHIH (CNRS-CETOBaC): Chair, Q&A

10:30-11:00 KONDO Fumiya (Sophia University): “From Festivals to Anniversaries: Recent Reconstructions of Mawlid’s Space in Egypt”
11:00-11:15 Rachida CHIH: Chair, Q&A

11:15-11:30: Break

11:30-12:00 UCHIYAMA Chie (Sophia University): “Destructuring the Discours of ‘Islam noir’ Persisting in Senegalese Islamic Education”
12:00-12:15 Thierry ZARCONE: Chair, Q&A

12:15-13:45 Lunch

13:45-14:15 Clara GAUTIER (Université Paris 1 Sorbonne): “Burns and scars: representations of Bektashi self-mutilations in illustrated manuscripts and in various ‘Collection of Ottoman Costumes’ (15th-18th centuries)”
14:15-14:30 AKAHORI Masayuki (Sophia University): Chair, Q&A

14:30-15:00 Makbule Nur AYAN (CNRS-CETOBaC): “Khoja Ahmad Yasavi in Turkey’s political discourse between 1998 and 2022”
15:00-15:15 TONAGA Yasushi (Kyoto University): Chair, Q&A

15:15-15:30: Break

15:30-16:00 MARUYAMA Daisuke (National Defense Academy of Japan): “Who are Ahl al-Dhikr?: Political Appropriation of Sufism and Saint in Contemporary Sudan”
16:00-16:15 Alexandre PAPAS: Chair, Q&A

16:15-16:30 AKAHORI Masayuki & TONAGA Yasushi: Conclusion

Convenors:
Akahori M., Tonaga Y., C. Gautier, Kondo F., A. Papas, Suzuki M., Th. Zarcone

Sponsors:
Institute for Islamic Area Studies (SIAS)
Center for Islamic Studies-Graduate School of Asian and African Studies (KIAS)
Kenan Rifai Center for Sufi Studies (KR)
Groupe Société, Religion et Laïcité, UMR8582 – CNRS (GSRL)
Islam médiéval, UMR8167 – CNRS (Orient et Méditerranée)
Centre d’études ottomanes, Collège de France (CEO)



 

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2023年2月15日 第4回「穏健イスラーム」研究会 報告

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」と平和中島財団アジア地域重点学術研究助成「イスラーム主義に対抗する穏健イスラームの試み――インドネシアの「宗教的穏健化」政策を中心に」の第4回ジョイント研究会(「穏健イスラーム」研究会)
日時:2月15日(水)16~18時
場所:上智大学2号館6階(2-615a教室)[ ハイブリッド実施 ]

【報告1】井上あえか「マイノリティとしての指導者ジンナー」

ムハンマド・アリー・ジンナーはパキスタン建国の父と言われるが、さまざまな点で、インドにおけるマイノリティであった。例えば、ムスリムであったこと、シーア派であったこと(ホージャー派から12イマーム派へ改宗)、パールシーと結婚したこと、イスラームに関心が薄かったこと、ムスリム多数派州で支持されていなかったこと、当時のカリスマ的指導者ガーンディーと対立したことなどである。彼はムスリムが少数派とならず、安心して生きられる社会を求め、いわば非宗教的(政教分離的)な政治家として、ムスリムの利益を代表した。とくに、シーア派というムスリムの中のマイノリティであったことが問題にされず、建国の父となったことは、インド・ムスリムの多様性と、穏健なイスラームの伝統を示唆する可能性があるのではないか。

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【報告2】山根聡「19世紀後半のウルドゥー語資料に見る文学空間と宗教-牝牛保護運動のマスナヴィー」

本報告では、南アジア、特に北インドで19世紀後半になって顕在化したヒンドゥーとムスリムの対立に関し、1880年代初めに刊行されたウルドゥー語の冊子『牝牛の嘆き』を取り上げて、先行研究で言及されてきた宗教間対立の動きに対し、対立の回避を企図する動きがあったことを報告した。
この雑誌はヒンドゥー教の改革団体「アーリヤ・サマージ」系のものでラーホールから刊行されたものである。ウルドゥー語で書かれており、ムスリムが必要以上に牝牛を屠殺する事を止めるように求める内容の記事や詩が収載されている。ヒンドゥー側がムスリムに呼びかけるような調子の記述が多く、中にはムスリムも登場してきてヒンドゥーに同調するような発言をしている。
従来の研究では、19世紀末の牝牛保護運動によってヒンドゥーとムスリムの断絶が深刻化したと語られてきたが、このように平和理に対立を避けようとした動きがあったことは、当時の資料の発掘と、再検討を要することを指摘した。

 

2023年6月11日 Rachida Chih先生の講演会を開催しました

ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターおよびイスラーム地域研究センター「ウラマー・スーフィー研究班」は、フランスより近代アラブ・スーフィズム研究者のRachida Chih先生(CNRS-CETOBaC)を招へいし、上智大学イスラーム地域研究センターとの共催により、下記の要領で研究講演会を開催しました。
【日時】2023年6月11日(日曜日)13:00~15:00
【場所】上智大学 2号館6階2-603教室 [ハイブリッド実施]
【プログラム】
Rachida Chih (Centre National de la Recherche Scientifique)”The Presence of the Prophet: The Construction of the Figure of Muhammad and the Politics of Prophetic Piety in Early Modern and Modern Islam”

 

本研究講演会は、科研研究費助成事業(基盤研究(A))「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」(22H00034、JSPS)、および同(基盤研究(A))「イスラームおよびキリスト教の聖者・聖遺物崇敬の人類学的研究」(JP1900564, JSPS)の研究活動の一環として実施されました

2023年6月11日 2023年度第1回「穏健イスラーム」研究会を実施しました

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」(22H00034)による2023年度第1回研究会(「穏健イスラーム」研究会)を対面とZoomのハイブリッド形式で実施しました。
【日時】2023年6月11日(日曜日)15:00~17:30
【場所】上智大学四谷キャンパス 2号館6階2-603教室 [ハイブリッド実施]
【プログラム】
東長靖「インドネシア調査報告」
和崎聖日「現代ウズベキスタン・イスラームの本流:ムハンマド=サーディク・ムハンマド=ユースフの思想」

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京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)講演会「知の先達たちに聞く―鎌田繁先生をお迎えして―」のお知らせ

京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)及びケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターでは、「知の先達たちに聞く」と題して、これまで、日本人(一部外国人を含む)の先生方をお招きして講演会を催し、お話を伺ってきました。これまでの講演記会録につきましては以下のURLをご覧下さい(https://kias.asafas.kyoto-u.ac.jp/publication.html)。
15回目を迎える今回は、鎌田繁先生をお招きし、「極私的イスラーム研究」と題するご講演によって、これまでの研究生活を振り返っていただきました。

鎌田繁先生は、イスラーム思想史、とくにシーア派とスーフィズムの研究を先導してこられました。その成果は、単著の 『モッラー・サドラーの霊魂論-『真知をもつ者たちの霊薬』校訂・訳注並びに序説』(イスラム思想研究会、1984)、『イスラームの深層 – 「遍在する神」とは何か』(NHK出版、2015)、共著の『古典への誘い』 (いきいきトーク知識の泉 著名人が語る<知の最前線> 第2巻 リブリオ出版、2007)、編著の『聖典と人間』(鎌田繁・市川裕編、宝積比較宗教・文化叢書第6巻、大明堂、1998)、『超越と神秘?中国・インド・イスラームの思想世界』 (鎌田繁・森秀樹編、宝積比較宗教・文化叢書第2巻、大明堂、1994)などの多くの著書・論文にまとめられています。なお、先生の古希をお祝いして、森本一夫・井上貴恵・小野純一・澤井真編『イスラームの内と外から-鎌田繁先生古希記念論文集』(ナカニシヤ出版、2023)が出版されております。

ご講演では、丹念な原典読解と深い思索によって発言を続けてこられた鎌田先生のこれまでの研究生活について、ご回想いただきました。

「知の先達たちに聞く―鎌田繁先生をお迎えして―」

日時:6月6日(火曜日)16時30分~18時30分
場所:京都大学吉田キャンパス総合研究2号館4階会議室AA447

講演者:鎌田繁(東京大学東洋文化研究所名誉教授)
タイトル:「極私的イスラーム研究」

会場の所在地については、以下の2点のリンク先の地図をご参照下さい。上のリンク先にある地図では「34」の建物が総合研究2号館になります。会議室はこの建物の4階東側にあります。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/yoshida/map6r-y
http://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/kias/contents/access_map08.pdf