2023年度第2回「穏健イスラーム」研究会 報告

 科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」                                       2023年度第3回研究会(「穏健イスラーム」研究会)
【日時】2024年2月4日(日曜日)13:00~17:00
【場所】京都大学吉田キャンパス本部構内 総合研究2号館4階 AA415(第1講義室)
【報告2】三沢伸生                                                                                            「トルコにおける「ウルムル・イスラーム( ılımlı İslam )」の検討」               
本報告はトルコにおける「穏健イスラーム」が言説的にどのように認識・共有されているのかを、新聞メディアでの使用事例数の経年推移からの検証作業を報告するものである。そのためにアメリカおよびイギリスの新聞メディアの、Islamic Fundamentalism、Moderate Islam、さらには日本の『読売新聞』の「穏健イスラーム」の使用頻度の経年推移をみた。アメリカでは2002年以降になってModerate Islamの使用が始まり急増している。すなわち現在の「穏健イスラーム」の言説はアメリカで形成、世界に敷衍し、やがてトルコでも訳語として「ウルムル・イスラーム」概念が用いられだした。しかし、社会的基盤は弱く、むしろ政治的な意図で用いられているのが現状と理解できる。今回の調査をもとに量的調査に満足せず、今後は質的調査も実施したい。

2024年2月4日 2023年度第2回「穏健イスラーム」研究会を実施しました

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」(22H00034)による2023年度第3回研究会(「穏健イスラーム」研究会)を実施しました。
【日時】2024年2月4日(日曜日)13:00~17:00
【場所】京都大学吉田キャンパス本部構内 総合研究2号館4階 AA401(第1講義室)
【プログラム】
新井和広「インドネシアの穏健イスラームに対するハドラミー・アラブの影響:ウマル・ビン・ハフィーズの活動と思想から」
三沢伸生「トルコにおける「ウルムル・イスラーム( ılımlı İslam )」の検討」     東長靖「2023年8月トルコ調査報告」

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2024年2月2日 鹿島学術振興財団「イスラームの宗教施設と都市空間との融合:モスクに集うムスリムたちの日本社会との共生」現地調査を実施しました

鹿島学術振興財団「イスラームの宗教施設と都市空間との融合:モスクに集うムスリムたちの日本社会との共生」現地調査を、2024年2月2日に静岡県静岡市と愛知県名古屋市のモスクで実施しました。

2024年2月12日 Michael Leezenberg教授(アムステルダム大学)講演会のお知らせ

このたび、上智大学イスラーム地域研究所の山口昭彦先生によりアムステルダム大学哲学科のMichael Leezenberg先生が招へいされ、京都大学人文科学研究所およびケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターとの共催で以下の講演会が開催される運びとなりました。
Leezenberg先生は広く哲学・思想をご専門とされておりますが、クルド研究の分野でも多岐にわたる(言語、文学、思想、宗教、政治など)業績を上げていらっしゃいます。今回は、「イスラーム世界の近代化における原動力としてのナクシュバンディー教団とワッハーブ派の対抗関係」と題して、19世紀以降のマウラーナー・ハーリドを創始者とするハーリディー=ナクシュバンディー教団の形成とワッハーブ派との関わりについて論じられます。

https://www.uva.nl/en/profile/l/e/m.m.leezenberg/m.m.leezenberg.html#Publications

対面での開催となりますが、多くの方々のご参加をお待ちしております。参加を希望される方は、下記URLの参加申込フォームにご記入ください。

日時:2024年2月12日(月)15時から17時
会場:京都大学人科学研究所本館4階大会議室
https://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/access/access.html
講師:Michael Leezenberg (University of Amsterdam)
題目:Naqshbandi-Wahhabi rivalry as a major force in the modernization of the Islamic world
参加申し込みフォーム:https://forms.gle/3tu58nKv6B6yTr917

要旨:Everybody is familiar with the importance of Muhamad ibn ‘Abd al-Wahhâb and the Wahhâbî movement for the development of Islam in the modern world. Far less well known are the Kurdish-born Mawlana Khalid al-Shahrazori and the Khalidiyya branch of Naqshbandi Sufism he created and spread. Thus, Mawlana and his movement are completely absent in standard works on ‘modern Islam,’ like John Voll’s 1994 Islam: Continuity and Change in the Modern World and, more recently, Ahmed Dallal’s 2018 Islam Without Europe: Traditions of Reform in 19th-Century Islamic Thought. Yet, reformist Khalidi-Naqshbandi Sufism was arguably a major factor in 19th- and 20th-century developments in the Ottoman empire and its successor states. Moreover, we gain a better understanding of Mawlana Khalid by exploring not only his enduring legacy in the post-Ottoman world, but by also paying attention to his specifically Kurdish backgrounds.
In this presentation, I will briefly trace the character and importance of Khalidi-Naqhsbandi Sufism in the 19th-century Ottoman empire and beyond, and explore to what extent it was driven by a specifically anti-Wahhâbî animus. In conclusion, I will briefly discuss whether and how these movements may be seen as marking distinctly ‘modern’ forms of religiosity.

お問い合わせ先:yamaguci[at]sophia.ac.jp

Lloyd Ridgeon先生講演会 “Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī” 報告

講演会”Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī

【日時】1月16日(火)16時~18時
【場所】京都大学本部構内総合研究2号館4階 会議室(AA447)

【プログラム】
Dr. Lloyd Ridgeon (University of Glasgow) , “Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī”.

2024年1月16日に、京都大学吉田キャンパス総合研究2号館4階会議室において、グラスゴー大学のロイド・リッジョン博士による講演会が開催された。講演タイトルはRūmī’s criticism of Awhad al-Din Kirmani’s shāhid-bāzīである。ケルマーニーはシャーヒドバーズィー (shāhid-bāzī)を重視したことで有名なスーフィーであるが、シャーヒドバーズィーはしばしば美少年愛と同一視される。ケルマーニーより半世紀ほど遅れて活躍したスーフィー詩人ルーミーが、シャーヒドバーズィーをどう評価していたかを、リッジョン博士は彼の詩を用いて考察した。この用語には、美少年愛という世俗的な意味のほかに、イスラーム法学における証人、スーフィズムにおける「神の美を観照する人」という意味があり、ルーミーは一般に後者の解釈をとったと考えられるが、前者の可能性も捨てきれないとした。なお、博士は現在ルーミーに関する新しい著作を準備中で、本発表の内容はその一部となる予定とのことであった。

2024年1月16日 Lloyd Ridgeon先生研究講演会”Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī”を開催しました

グラスゴー大学のLloyd Ridgeon先生による研究講演会”Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī“を開催しました。

【日時】1月16日(火)16時~18時
【場所】京都大学本部構内総合研究2号館4階 会議室(AA447)

【プログラム】
Dr. Lloyd Ridgeon (University of Glasgow) , “Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī”.

【共催】
京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センター
科研費・基盤研究(B)「「スンナ派」と「シーア派」:自己意識と相互認識のイスラーム史研究にむけて」(研究代表:森本一夫、23H00674)
慶應義塾大学商学部新井和広研究室
京都大学イスラーム地域研究センター

【後援】
科研費・国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「スーフィズムの総合的研究-思想・文学・音楽・儀礼を通して」(研究代表:東長靖、21KK0001)

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2023年度第2回「穏健イスラーム」研究会 報告

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」                                       2023年度第2回研究会(「穏健イスラーム」研究会)

【日時】2023年11月12日(日)
【場所】オンライン

【報告1】佐々木拓雄「インドネシアのイスラームにおける宗教多元主義―カルティニからヌルホリス・マジッドまで」

宗教間調和が課題であるインドネシアのイスラームにおいては、超越的な神のもとでの宗教の多元性と平等性を唱える「宗教多元主義」が一つの思想的潮流として展開してきた。報告では、既発表の論文(佐々木拓雄「宗教間の調和のために−宗教多元主義を唱えるインドネシアのムスリム知識人」『久留米大学法学』80号、2019年)をもとにその展開をたどり、いくつかの考察を加えた。
インドネシアのイスラームにおける宗教多元主義は、その系譜をオランダ植民地時代のカルティニまで遡ることができ、スカルノによって建国の理念にも投影された。1960年代末以降、それが一部の「ムスリム知識人」によって継承されたことがさらに重要で、その代表的人物としてアフマド・ワヒブ、ジョハン・エフェンディ、グス・ドゥル、ヌルホリス・マジッドなどがいる。その知的営みの背景にスハルト政権による庇護が存在したことは否定できないが、彼らの思索そのものの深さゆえに宗教多元主義が生き長らえてきたという側面もあるだろう。
考察・検討の際に焦点となったのは、ヌルホリスによる「クルアーンに依拠した」宗教多元主義の唱導である。大胆な試みでありながら、それは、Thomas Bauer, A Culture of Ambiguity (New York: Columbia University Press, 2021)などが指摘するところの「テキスト(文字)に依拠して単一の答えを導きだそうとする」西欧近代由来の思考様式に準じてなされるものだともいえ、イスラームが元来備えていたという「曖昧さ(多元性)の文化」や宗教多元主義の可能性そのものを狭めるリスクを孕んでいる。一方で、Bauerらの近代イスラーム批判についての検証はまだ十分でなく、それは今後の課題となる。

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【報告2】赤堀雅幸「穏健イスラームとイスラーム穏健派の間:『イスラームの人類学』とフィールドワーク」

タラル・アサドの「言説伝統」の概念を受けて、現地調査に基づく民族誌的記述に言説伝統概念を活かす可能性について、エジプト西部砂漠のベドウィンの3人の人物を取り上げて論じた。近しい親族である3人が、公教育を受ける中で「正しいイスラーム」をめぐって異なる姿勢を取りつつ交流する様子や、1993年と2011年という時間の経過とともにイスラームへの姿勢も変化する様子に目配りをした。これを踏まえて、現実の言説伝統形成の場がきわめて流動的に形成されると同時に、イスラーム急進派のみではなく、イスラーム穏健派もまた一個の言説伝統を作り出す規律訓練的な権力作用としての側面をもち、それが参照する理念、あるいは現実としての「穏健イスラーム」とは何であるかについても検討すべきであることを提言した。さらに、イスラーム急進派に対する他律的な運動としての性格がイスラーム穏健派に見られ、結果として宗教的ナショナリズムなど、イスラームそのものの正しさとは異なる方向性がそのなかに胚胎されがちな点も指摘した。不十分な発表ではあったが、幸いに多くの質問やコメントが得られ、とくに「穏健」に変わり「中道」概念を用いるという可能性の議論は、二元的な枠組みを三元的に捉え直す意味も含めて重要と思われた。

 

2023年11月12日 2023年度第2回「穏健イスラーム」研究会を実施しました

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」(22H00034)による2023年度第2回研究会(「穏健イスラーム」研究会)をZoomによるオンライン形式で実施しました。
【日時】2023年11月12日(日)
【場所】オンライン
【プログラム】
赤堀雅幸「穏健イスラームとイスラーム穏健派の間:『イスラームの人類学』とフィールドワーク」
佐々木拓雄「インドネシアのイスラームにおける宗教多元主義―カルティニからヌルホリス・マジッドまで」
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オンデマンド連続講演会「イスラームにおける聖性の継承:預言者、聖者の血統と聖遺物」(Sophia Open Research Weeks 2023企画)

上智大学イスラーム研究所と京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターは11月13日(月)/20日(月)~12月3日(日)に、オンデマンド連続講演会「イスラームにおける聖性の継承:預言者、聖者の血統と聖遺物」(Sophia Open Research Weeks 2023企画)を開催します。

【プログラム】
企画立案 赤堀雅幸(上智大学総合グローバル学部教授、イスラーム地域研究所長)

11月13日(月)公開
1. 森本一夫(東京大学東洋文化研究所教授)
「世界に広がる預言者ムハンマドの一族」
2. 新井和広(慶應義塾大学商学部教授)
「インドネシアにおける預言者ムハンマドの一族:高貴な血統を持つ生身の人間」

11月20日(月)公開
3. 三沢伸生(東洋大学社会学部教授)
「オスマン帝国とイスラームの聖遺物」
4. 小牧幸代(高崎経済大学地域政策学部教授)
「南アジア・イスラーム世界と聖遺物信仰」

【問い合わせ先】
上智大学イスラーム地域研究所:sias-co@sophia.ac.jp

*本講演会は、JSPS科研費 JP19H00564、JP21KK0001、JP22H00034 および日本私立 学校振興・共済事業団学術研究振興資金の助成を受けた研究の成果です。

詳細はhttps://dept.sophia.ac.jp/is/SIAS/achievement/2023/sorw_2023.htmlへ。

ウスキュダル大学ジョイントセミナー “Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”報告

【日時】8月28日(月) 午前10~19時
【場所】トルコ共和国イスタンブル市、ウスキュダル大学ネルミン・タルハンホール

京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターとウスキュダル大学スーフィズム研究所が連携して遂行中の国際共同プログラム「スーフィズムの総合的研究-思想・文学・音楽・儀礼を通して」(JSPS国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))課題番号21KK0001、2021-26年度)の一環として、“Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”と題したジョイントセミナーが開催された。
本ジョイントセミナーは、上記共同研究「の趣旨に基づき、以下の四つのトピックに分かれて行われた。

1. 第1セッション:“Mystical Thought of Sufis”(スーフィズムの思想的側面)
2. 第2セッション:“Literature of Sufism”(スーフィズムの文学的側面)
3. 第3セッション:“Sufi Music”(スーフィズムの音楽的側面)
4. 第4セッション:“Ritual of Sufism”(スーフィズムの儀礼的側面)

プログラムは以下のとおりである。

Opening Session
Welcoming Speeches: Cemalnur Sargut
Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
“Aim and Scope of the Joint Research ‘Comprehensive Study of Sufism: Through Metaphysics, Literature, Music, and Rituals”
Mahmud Erol Kılıç, Ph.D., Prof.
Hikmet Koçak, MD. Prof.

Session1Mystical Thought of Sufis
Chairperson: Kenan Gürsoy, Ph.D., Prof.
Petek Kutucuoğlu, MA.Stu.
“Ahmed Avni Konuk’s Mathnawi Commentary and the Concept of Predisposition”
Azusa Fujimoto, Ph.D.-C.
“New Spirituality and Sufism in Turkey: Focusing on Western Interpretations of Mawlana”
Reşat Öngören, Ph.D., Prof.
“Dimensions of Sufi Thought in Mawlana Jalal al-Din Rumi”
12.45-13.00 Q&A

Session 2 Literature of Sufism
Chairperson: Masayuki Akahori, Ph.D., Prof.
Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
“Arts of Literature, Music and Rituals in Buddhism”
Emine Yeniterzi, Ph.D., Prof.
“Mawlana Jalal al-Din Rumi’s Influence in Turkish Sufi Literature: Stories from Mathnawi”

Session 3:Sufi Music
Chairperson: H. Dilek Güldütuna, Ph.D., Asst. Prof.
Manami Suzuki, Ph.D., Asst. Prof.
“Ney in Mevlevi: Forming the Religious Specificity through the Image and Practice”
V. Emre Ömürlü, Ph.D., Prof. (Ph.D.-C)
“Mawlawi Collations (Muqabalah) in Mawlawi Rites and Types of Practicing Dhikr in Some Tariqas”

Session 4:Ritual of Sufism
Chairperson: Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
H. Dilek Güldütuna, Ph.D., Asst. Prof.
“Wayfaring (Sayr wa Suluk) Symbolism in Sama’ Ritual”
Masayuki Akahori, Ph.D. Prof.
“Reviewing Anthropology of Sufism: Changing Perspectives”
F. Cangüzel Güner Zülfikar, Ph.D., Asst. Prof.
“Mawlawi-khanas as Civilized and Civilizing Spaces”

General Discussion:
Towards a Comprehensive Understanding of Sufism
Chairperson: F. Cangüzel Güner Zülfikar, Ph.D., Asst. Prof.
以下、紙幅の関係もあり、日本側発表者に絞って、発表の梗概を紹介したい。本ジョイントセミナーは、同時放映されると同時に、ウスキュダル大学スーフィズム研究所のホームページ上で、全体の発表を視聴することができる。(https://www.youtube.com/watch?v=IiguSwELHak)

第1セッションでは、報告者が“New Spirituality and Sufism in Turkey: Focusing on Western Interpretations of Mawlana”という題目で発表を行った。最初に信仰の新しいあり方である「新たなスピリチュアリティ」に関する既存研究を提示し、トルコにおける「スピリチュアル」な実践の広まり、宗教団体の反応、若者の宗教離れを考察した。加えて、西洋で人気のある非学術的で「スピリチュアル」なスーフィズム解釈がトルコでも広がり、特に若者層に受容・消費されている点を指摘した。最後に、「ユニバーサル・スーフィズム」の概念を取り上げ、トルコにおける伝統的なスーフィズムと並存している「スピリチュアル」なスーフィズムの形態を提唱した。

第2セッションでは、当センター長である東長靖が“Arts of Literature, Music and Rituals in Buddhis”という題目で発表を行った。まず、主要な三大仏教(上座部仏教、大乗仏教、金剛乗教)について概説したのち、浄土教とキリスト教、さらに禅宗とメヴレヴィー教団の類似点を指摘した。次に、言葉を介さない「以心伝心」を意味する拈華微笑と神秘体験との関連性に加え、仏教とスーフィズムの文学的な共通点として酔人の言葉であるシャタハートと禅語録について説明した。最後に、スーフィズムと同様、仏教にも詩(和讃)、音楽(ご詠歌)、儀礼(踊念仏)があることを映像で提示し、諸宗教の普遍性について論じた。

第3セッションでは、当センターの首席上級研究員である鈴木麻菜美が“Ney in Mevlevi:
Forming the Religious Specificity through the Image and Practice”という題目で発表を行った。スーフィズムを音楽学の観点から分析した本発表は、忘我に導くための音楽、ズィクル(神への唱名)、身体動作の三つに焦点を当てた。始めにコソボのハルヴェティー教団のズィクルの映像を紹介し、この儀礼では打楽器が主要な楽器であり、信者の足踏みや上下運動、短い韻律が特徴的であると述べた。続いて、コンヤのメヴレヴィー教団のセマー(旋回舞踊)の映像を提示し比較した。この儀礼ではネイ、カーヌーン、ウード、クドュムが主要な楽器であり、曲は神秘詩に基づき、音楽はオスマン宮廷音楽の理論に近い要素を有する長い韻律と拍節を持つ点などを解説し、二つの教団における楽器の音声的特徴と身体動作との関係を指摘した。

第4セッションでは、上智大学教授の赤堀雅幸が“Reviewing Anthropology of Sufism: Changing Perspectives”という題目で発表した。人類学的な視点からスーフィズムの儀礼研究の方法論を概観した本発表はまず、心理人類学的アプローチの背景を紹介し、19世紀の研究において儀礼はトランス/エクスタシーや変性意識状態といった用語を通じて理解されてきたことを説明した。次に、通過儀礼アプローチの構造分析に関連する既存の研究に触れ、コミュニティ・ベースのアプローチにおいて「コミュニタス」の概念を中心に議論した。最後に、規律訓練としての儀礼論について、日本の伝統的な「修行」の概念を紹介し、この概念は身体と精神の両面の鍛練を指すため、「儀礼」よりも「修行」という言葉がより適切である可能性を示唆した。

今回のジョイントセミナーは、従来分離されていたイスラーム研究と人類学研究を結びつけると同時に、知識人エリート層による神秘哲学と人々の実践とのギャップを埋める試みを行った。それぞれの発表では、形而上学に限らず、思想的な視点から身体実践に至るまで多様なトピックが取り上げられた。特に日本人研究者側からは、テクスト読解などの古典的な研究手法に限定されない、新たなスーフィズム研究のアプローチを提供できた。この点において、今回のジョイントセミナーはトルコと日本のスーフィズム研究における新たな一歩として意義深いセミナーであった。

(藤本あずさ)