2024年3月18-19日 2024 AFOMEDI Conference”Spaces of Familiarity, Spaces of Difference in the Mediterranean” 報告

 

地中海研究機関アジア連盟(Asian Federation of Mediterranean Studies Institutes, AFOMEDI)第4回国際会議“Spaces of Familiarity, Spaces of Difference in the Mediterranean” 報告書

 

棚橋由賀里・本間流星・森口遥平
第4回目となるAFOMEDI国際会議、“Spaces of Familiarity, Spaces of Difference in the Mediterranean”(地中海における親しみの空間、差異の空間)が、台湾国立の学術研究機関である中央研究院歴史語言研究所にて開催された。コロナ禍以降初となる対面開催であり、3月18日(月)と19日(火)の2日間で計17のパネル・セッションが組まれ、歴史学・考古学・文学・人類学・文献学といった様々な観点から研究発表が行われた。これまでは台湾・韓国・日本の研究機関が中心となってきたが、今回は欧米、中東・北アフリカ、東南アジア、オセアニアと幅広い地域の研究者が参加し、非常に活気に満ちた会議となった。
参加学生の報告書は以下のとおりである。

棚橋由賀里
報告者は、ポルトガルの侵攻に苦しんだ15–16世紀のモロッコを研究対象としているため、中世・近世の地中海における外交、戦争、海賊行為などを扱ったパネルに関心を持った。特に以下の発表が興味深かった。1日目第2セッション“The Limits of Familiarity in Sixteenth-Century Cross-Confessional Mediterranean Diplomacy”におけるRubén González Cuerva氏(スペイン国立研究評議会)の発表“Familiarity beyond Religion? Patterns of Negotiated Exchanges in Habsburg-Hafsi Diplomacy (1535-1573)”は、オスマン帝国に対抗してスペイン・ハプスブルク家とチュニジアのハフス朝が結んだ同盟関係に関して、主に贈り物・書簡の交換や翻訳活動といった形式の交流に光を当てたものであった。両者の緊張関係が、信仰する宗教によってではなく、外交において文書と口頭の会話のいずれを重視するかという様式の違いによって露わになった点が興味深かったとともに、宗教以外の対立軸を考慮する必要性を再認識した。また同日第5セッション“Violence and the Sea in the Medieval Mediterranean”におけるTravis Bruce氏(マギル大学)の“Medieval Maritime Violence and Mediterranean Spiritual Economy”は、中世地中海の海事における受難、すなわち海戦・海賊行為によって略奪や身体拘束を扱ったものである。暴力を被る経験は、キリスト教徒・ムスリム双方にとって、敬虔な信徒が信仰心によって苦難を耐え忍ぶ物語や、神が信徒たちを拘束や虐待から救うために介入する物語を生み出したほか、富裕な者にとっては自らの富を身代金の支払いすなわち同胞救済に擲つという一種の浄化行為を行う機会となったという。苦難の経験を宗教的な文脈でプラスに転換するという現象に関して、“spiritual economy”あるいは“spiritual capital”という枠組みを用いた研究は、本邦の心性史研究では菅見の限り出会ったことがなく、新鮮であった。
報告者は、2日目の第13セッション“Islamic Spaces and Colonial Resistance”において“Social Reform in the 15-16th Centuries Morocco Tackled by the Sufis of al-Ṭarīqa al-Jazūlīya”というタイトルで発表をおこなった。内容としては、ポルトガルの侵攻に苦しむ15–16世紀モロッコにおいて、これまで「スーフィー教団」という枠組みで語られてきたタリーカ・ジャズーリーヤという道統のスーフィーたちの社会改革について、宗教教育・政治参加・慈善活動といったトピックを挙げてその個別性・多様性を論じたものである。コメンテーターのTravis Bruce氏(マギル大学)からは、“Colonial Resistance”というテーマと関連した議論を求められた。報告者は、外部からの征服に対する反応として宗教的な純粋さを取り戻そうとする機運が生じること自体には時代を超えた普遍性があるとしつつも、国民国家の概念が存在しなかった前近代モロッコにおいて、集団的な抵抗を想起させる“Colonial Resistance”という語を安易に当てはめることには慎重でありたいと述べた。
(以上文責:棚橋由賀里)

報告者が特に関心を抱いたのは、1日目の第6セッション“Political Cultures and the Shaping of Spaces”におけるPeter Kitlas氏(ベイルート・アメリカン大学)の発表“Scribal Spaces and Diplomatic Knowledge Production in the Eighteenth-Century Muslim Mediterranean”である。本発表は、18世紀の地中海地域におけるムスリム外交官らの知的・文化的コンテクストを、当時の北アフリカとオスマン帝国に焦点を当てて考察するというものであり、そこでは前近代から近代の転換点という時代の中でムスリム個々人が地中海地域の外交において果たした役割が示された。地中海地域のムスリム外交官らの知的営為を「書記文化(scribal culture)」という枠組みで論じた本発表は、ムスリム地域の外交史研究のみならず、思想・文化研究への幅広い視点をも有していた。
報告者は、2日目の第13セッション“Islamic Spaces and Colonial Resistance”において、“Ashraf ‘Alī Thānavī and Sufi Metaphysics: The Modern Development of the School of Ibn ‘Arabī in South Asia”と題した発表を行い、これまで看過されてきた近代南アジアのイブン・アラビー学派に関して、デーオバンド派の学者且つチシュティー派のスーフィーであったアシュラフ・アリー・ターナヴィー(d. 1943)の著作群に着目して論じた。コメンテーターのTravis Bruce氏(マギル大学)からは、イギリス植民地期という政治的・社会的文脈により関連付けた議論を求められた。それに対して報告者は、ターナヴィーのスーフィー形而上学と植民地期南アジアの政治・社会の密接な関わりを現時点では見出せていないと断りを入れた上で、ムスリム連盟のパキスタン建国運動における晩年のターナヴィーの関与について説明した。
「地中海地域における親近性/相違性の空間」が大きなテーマとして掲げられた今大会では、キリスト教とイスラームを中心に多くの異なる宗教文化が歴史的に交差してきた当該地域において、それら諸宗教が如何なる仕方で政治的・社会的・知的に関わり合い、対立・調和を繰り返してきたのかという点に着目した発表が多かったように思われる。また、地中海には直接的に面していない東・東南アジアを含む広範な諸地域に関しても頻繁に論じられ、「地中海地域」という概念自体に対する再検討の試みが見られた点は、今後の研究の裾野を拡げるという意味でも大きな意義があったと考える。
(以上文責:本間流星)

本学会のテーマは地中海の研究であったが、AFOMEDI運営メンバーである東長靖先生のご厚意で発表の機会をいただいた。私の発表は大会2日目に「大学院生ワークショップ」と題されたセクション内でおこなわれた。10分の発表後、コメンテーターのフィードバック、聴講者との質疑応答というスタイルだった。報告者は、予備論文で論じた前近代南アジアのイスラーム神秘主義思想に関して発表した。北アフリカのイスラーム法学を専攻するコメンテーターとのディスカッション、多様な研究関心を持つ聴講者との質疑応答は、博士予備論文を書き終え、博士論文に向けて学問的関心を広げるという点で有意義だった。本学会は、東アジアや東南アジア、ヨーロッパやアメリカからの60名ほどの参加者がいたが、様々な文化的背景を持ち、多様な研究をおこなう教授や院生と学会中を通じて交流を楽しむことができた。今後、共同研究などに繋げていきたいと思う。また、1日目のTeofilo Ruiz氏(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)によるキーノートスピーチ“In Search of Deliverance: Lived Experiences of Mediterranean Space in the Past and Present”では、同氏の人生が語られたが、出身地のキューバの社会混乱など様々な逆境に置かれつつも、研究し続けたという内容に感銘を受けた。
以下は、報告者が中央研究院に滞在するなかで得た所感である。まず指摘したいのは、構内で多くのインド人研究者を目にしたことである。先日、京大の学内広報誌で「日本および京都大学はインド人学生・研究者の招へいを進めている」と読んだが、自国外の優秀な研究者や学生の獲得競争がアジアでも本格化していると感じた。このことは、前回まではアジアからの参加者のみであったのに対して、今回は世界中からの参加者がいたことと無関係ではないはずだ。また、もう一点報告者が注目したこととして、会場補佐を担当していた学生の英語力の高さが挙げられる。会場内での英語対応や学会後の懇親会での参加者との会話などを耳にしただけだが、いずれも円滑におこなっていた。このことも台湾の大学が国際化に力を入れていることの傍証だと思われる。
(以上文責:森口遥平)

2023年度第3回「穏健イスラーム」研究会 報告

 科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」                                       2023年度第3回研究会(「穏健イスラーム」研究会)
【日時】2024年2月4日(日曜日)13:00~17:00
【場所】京都大学吉田キャンパス本部構内 総合研究2号館4階 AA415(第1講義室)
【報告1】新井和広                                     「ハビーブ・ウマルとインドネシアの穏健イスラーム」
 本報告ではインドネシアの穏健イスラームにおけるアラブ系の活動について、ハドラマウト(南アラビア)のタリームで宗教学校を運営しているウマル・ビン・ハフィーズ(ハビーブ・ウマル)の活動に焦点を当てて論じた。ハビーブ・ウマルは1990年代以降にハドラマウトとインドネシアの人的交流が復活した後、インドネシアで最も良く知られるようになったハドラマウトの宗教者である。彼がタリームに設立した宗教学校「ダール・ムスタファー(預言者の家)」には多くの東南アジア(インドネシア、マレーシア、シンガポールほか)出身者が学び、卒業生たちは帰国後独自にダアワ(イスラームへの呼びかけ)を行っている。またウマル本人も毎年インドネシアを訪問し、ジャワを中心とする各地で大規模なダアワ集会を開催している。                         ハビーブ・ウマルの思想の特徴はハドラマウトの伝統的な宗教活動の継承、啓示・スンナの重視、ダアワの強調であるが、その中で穏健・平和へのメッセージが本プロジェクトと最も密接に関連している。具体的には集団間の対話、対話する相手への敬意、信徒の内面などを重視している。彼の著書『イスラームにおける中庸(al-Wasatiyya fi al-Islam)』は2003年6月1日にハドラマウト大学教育学部で行った講演の記録だが、インドネシア語でも『穏健な宗教:イスラームの教義の真実の再興(Agama Moderat: Menghidupkan Kembali Hakikat Ajaran Islam)』というタイトルで出版されている。そこでは「穏健」をシャリーアの本質を理解すること、啓示の本質と位置づけ、さまざまなテーマに従って穏健とは何かを論じている。全体としてはイスラームを穏健な宗教と位置づけているが、そこにウマル独自の理論を見つけることは困難である。               ウマル自身は政治や政府の政策に直接関わることを避けているし、弟子たちにも政治に関わることを禁じている。しかしウマル自身の言葉は事あるごとに周りに解釈され、選挙運動などに利用されている。それはウマルが曖昧かつ常識的な言葉で語っていることに因っている。いずれにしてもナフダトゥル・ウラマ(NU)とも近いウマルは今後もインドネシアの(穏健)イスラームに一定の影響力を及ぼしていくであろう。
【報告2】三沢伸生                                                                                            「トルコにおける「ウルムル・イスラーム( ılımlı İslam )」の検討」               
 本報告はトルコにおける「穏健イスラーム」が言説的にどのように認識・共有されているのかを、新聞メディアでの使用事例数の経年推移からの検証作業を報告するものである。そのためにアメリカおよびイギリスの新聞メディアの、Islamic Fundamentalism、Moderate Islam、さらには日本の『読売新聞』の「穏健イスラーム」の使用頻度の経年推移をみた。アメリカでは2002年以降になってModerate Islamの使用が始まり急増している。すなわち現在の「穏健イスラーム」の言説はアメリカで形成、世界に敷衍し、やがてトルコでも訳語として「ウルムル・イスラーム」概念が用いられだした。しかし、社会的基盤は弱く、むしろ政治的な意図で用いられているのが現状と理解できる。今回の調査をもとに量的調査に満足せず、今後は質的調査も実施したい。

2024年2月2日 鹿島学術振興財団「イスラームの宗教施設と都市空間との融合:モスクに集うムスリムたちの日本社会との共生」現地調査を実施しました

鹿島学術振興財団「イスラームの宗教施設と都市空間との融合:モスクに集うムスリムたちの日本社会との共生」現地調査を、2024年2月2日に静岡県静岡市と愛知県名古屋市のモスクで実施しました。

Lloyd Ridgeon先生講演会 “Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī” 報告

講演会”Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī

【日時】1月16日(火)16時~18時
【場所】京都大学本部構内総合研究2号館4階 会議室(AA447)

【プログラム】
Dr. Lloyd Ridgeon (University of Glasgow) , “Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī”.

2024年1月16日に、京都大学吉田キャンパス総合研究2号館4階会議室において、グラスゴー大学のロイド・リッジョン博士による講演会が開催された。講演タイトルはRūmī’s criticism of Awhad al-Din Kirmani’s shāhid-bāzīである。ケルマーニーはシャーヒドバーズィー (shāhid-bāzī)を重視したことで有名なスーフィーであるが、シャーヒドバーズィーはしばしば美少年愛と同一視される。ケルマーニーより半世紀ほど遅れて活躍したスーフィー詩人ルーミーが、シャーヒドバーズィーをどう評価していたかを、リッジョン博士は彼の詩を用いて考察した。この用語には、美少年愛という世俗的な意味のほかに、イスラーム法学における証人、スーフィズムにおける「神の美を観照する人」という意味があり、ルーミーは一般に後者の解釈をとったと考えられるが、前者の可能性も捨てきれないとした。なお、博士は現在ルーミーに関する新しい著作を準備中で、本発表の内容はその一部となる予定とのことであった。

2023年度第2回「穏健イスラーム」研究会 報告

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」                                       2023年度第2回研究会(「穏健イスラーム」研究会)

【日時】2023年11月12日(日)
【場所】オンライン

【報告1】佐々木拓雄「インドネシアのイスラームにおける宗教多元主義―カルティニからヌルホリス・マジッドまで」

宗教間調和が課題であるインドネシアのイスラームにおいては、超越的な神のもとでの宗教の多元性と平等性を唱える「宗教多元主義」が一つの思想的潮流として展開してきた。報告では、既発表の論文(佐々木拓雄「宗教間の調和のために−宗教多元主義を唱えるインドネシアのムスリム知識人」『久留米大学法学』80号、2019年)をもとにその展開をたどり、いくつかの考察を加えた。
インドネシアのイスラームにおける宗教多元主義は、その系譜をオランダ植民地時代のカルティニまで遡ることができ、スカルノによって建国の理念にも投影された。1960年代末以降、それが一部の「ムスリム知識人」によって継承されたことがさらに重要で、その代表的人物としてアフマド・ワヒブ、ジョハン・エフェンディ、グス・ドゥル、ヌルホリス・マジッドなどがいる。その知的営みの背景にスハルト政権による庇護が存在したことは否定できないが、彼らの思索そのものの深さゆえに宗教多元主義が生き長らえてきたという側面もあるだろう。
考察・検討の際に焦点となったのは、ヌルホリスによる「クルアーンに依拠した」宗教多元主義の唱導である。大胆な試みでありながら、それは、Thomas Bauer, A Culture of Ambiguity (New York: Columbia University Press, 2021)などが指摘するところの「テキスト(文字)に依拠して単一の答えを導きだそうとする」西欧近代由来の思考様式に準じてなされるものだともいえ、イスラームが元来備えていたという「曖昧さ(多元性)の文化」や宗教多元主義の可能性そのものを狭めるリスクを孕んでいる。一方で、Bauerらの近代イスラーム批判についての検証はまだ十分でなく、それは今後の課題となる。

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【報告2】赤堀雅幸「穏健イスラームとイスラーム穏健派の間:『イスラームの人類学』とフィールドワーク」

タラル・アサドの「言説伝統」の概念を受けて、現地調査に基づく民族誌的記述に言説伝統概念を活かす可能性について、エジプト西部砂漠のベドウィンの3人の人物を取り上げて論じた。近しい親族である3人が、公教育を受ける中で「正しいイスラーム」をめぐって異なる姿勢を取りつつ交流する様子や、1993年と2011年という時間の経過とともにイスラームへの姿勢も変化する様子に目配りをした。これを踏まえて、現実の言説伝統形成の場がきわめて流動的に形成されると同時に、イスラーム急進派のみではなく、イスラーム穏健派もまた一個の言説伝統を作り出す規律訓練的な権力作用としての側面をもち、それが参照する理念、あるいは現実としての「穏健イスラーム」とは何であるかについても検討すべきであることを提言した。さらに、イスラーム急進派に対する他律的な運動としての性格がイスラーム穏健派に見られ、結果として宗教的ナショナリズムなど、イスラームそのものの正しさとは異なる方向性がそのなかに胚胎されがちな点も指摘した。不十分な発表ではあったが、幸いに多くの質問やコメントが得られ、とくに「穏健」に変わり「中道」概念を用いるという可能性の議論は、二元的な枠組みを三元的に捉え直す意味も含めて重要と思われた。

 

ウスキュダル大学ジョイントセミナー “Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”報告

【日時】8月28日(月) 午前10~19時
【場所】トルコ共和国イスタンブル市、ウスキュダル大学ネルミン・タルハンホール

京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターとウスキュダル大学スーフィズム研究所が連携して遂行中の国際共同プログラム「スーフィズムの総合的研究-思想・文学・音楽・儀礼を通して」(JSPS国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))課題番号21KK0001、2021-26年度)の一環として、“Bridging Mystical Philosophy and Arts in Sufism: Poetry, Music and Sama’ Ritual”と題したジョイントセミナーが開催された。
本ジョイントセミナーは、上記共同研究「の趣旨に基づき、以下の四つのトピックに分かれて行われた。

1. 第1セッション:“Mystical Thought of Sufis”(スーフィズムの思想的側面)
2. 第2セッション:“Literature of Sufism”(スーフィズムの文学的側面)
3. 第3セッション:“Sufi Music”(スーフィズムの音楽的側面)
4. 第4セッション:“Ritual of Sufism”(スーフィズムの儀礼的側面)

プログラムは以下のとおりである。

Opening Session
Welcoming Speeches: Cemalnur Sargut
Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
“Aim and Scope of the Joint Research ‘Comprehensive Study of Sufism: Through Metaphysics, Literature, Music, and Rituals”
Mahmud Erol Kılıç, Ph.D., Prof.
Hikmet Koçak, MD. Prof.

Session1Mystical Thought of Sufis
Chairperson: Kenan Gürsoy, Ph.D., Prof.
Petek Kutucuoğlu, MA.Stu.
“Ahmed Avni Konuk’s Mathnawi Commentary and the Concept of Predisposition”
Azusa Fujimoto, Ph.D.-C.
“New Spirituality and Sufism in Turkey: Focusing on Western Interpretations of Mawlana”
Reşat Öngören, Ph.D., Prof.
“Dimensions of Sufi Thought in Mawlana Jalal al-Din Rumi”
12.45-13.00 Q&A

Session 2 Literature of Sufism
Chairperson: Masayuki Akahori, Ph.D., Prof.
Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
“Arts of Literature, Music and Rituals in Buddhism”
Emine Yeniterzi, Ph.D., Prof.
“Mawlana Jalal al-Din Rumi’s Influence in Turkish Sufi Literature: Stories from Mathnawi”

Session 3:Sufi Music
Chairperson: H. Dilek Güldütuna, Ph.D., Asst. Prof.
Manami Suzuki, Ph.D., Asst. Prof.
“Ney in Mevlevi: Forming the Religious Specificity through the Image and Practice”
V. Emre Ömürlü, Ph.D., Prof. (Ph.D.-C)
“Mawlawi Collations (Muqabalah) in Mawlawi Rites and Types of Practicing Dhikr in Some Tariqas”

Session 4:Ritual of Sufism
Chairperson: Yasushi Tonaga, Ph.D., Prof.
H. Dilek Güldütuna, Ph.D., Asst. Prof.
“Wayfaring (Sayr wa Suluk) Symbolism in Sama’ Ritual”
Masayuki Akahori, Ph.D. Prof.
“Reviewing Anthropology of Sufism: Changing Perspectives”
F. Cangüzel Güner Zülfikar, Ph.D., Asst. Prof.
“Mawlawi-khanas as Civilized and Civilizing Spaces”

General Discussion:
Towards a Comprehensive Understanding of Sufism
Chairperson: F. Cangüzel Güner Zülfikar, Ph.D., Asst. Prof.
以下、紙幅の関係もあり、日本側発表者に絞って、発表の梗概を紹介したい。本ジョイントセミナーは、同時放映されると同時に、ウスキュダル大学スーフィズム研究所のホームページ上で、全体の発表を視聴することができる。(https://www.youtube.com/watch?v=IiguSwELHak)

第1セッションでは、報告者が“New Spirituality and Sufism in Turkey: Focusing on Western Interpretations of Mawlana”という題目で発表を行った。最初に信仰の新しいあり方である「新たなスピリチュアリティ」に関する既存研究を提示し、トルコにおける「スピリチュアル」な実践の広まり、宗教団体の反応、若者の宗教離れを考察した。加えて、西洋で人気のある非学術的で「スピリチュアル」なスーフィズム解釈がトルコでも広がり、特に若者層に受容・消費されている点を指摘した。最後に、「ユニバーサル・スーフィズム」の概念を取り上げ、トルコにおける伝統的なスーフィズムと並存している「スピリチュアル」なスーフィズムの形態を提唱した。

第2セッションでは、当センター長である東長靖が“Arts of Literature, Music and Rituals in Buddhis”という題目で発表を行った。まず、主要な三大仏教(上座部仏教、大乗仏教、金剛乗教)について概説したのち、浄土教とキリスト教、さらに禅宗とメヴレヴィー教団の類似点を指摘した。次に、言葉を介さない「以心伝心」を意味する拈華微笑と神秘体験との関連性に加え、仏教とスーフィズムの文学的な共通点として酔人の言葉であるシャタハートと禅語録について説明した。最後に、スーフィズムと同様、仏教にも詩(和讃)、音楽(ご詠歌)、儀礼(踊念仏)があることを映像で提示し、諸宗教の普遍性について論じた。

第3セッションでは、当センターの首席上級研究員である鈴木麻菜美が“Ney in Mevlevi:
Forming the Religious Specificity through the Image and Practice”という題目で発表を行った。スーフィズムを音楽学の観点から分析した本発表は、忘我に導くための音楽、ズィクル(神への唱名)、身体動作の三つに焦点を当てた。始めにコソボのハルヴェティー教団のズィクルの映像を紹介し、この儀礼では打楽器が主要な楽器であり、信者の足踏みや上下運動、短い韻律が特徴的であると述べた。続いて、コンヤのメヴレヴィー教団のセマー(旋回舞踊)の映像を提示し比較した。この儀礼ではネイ、カーヌーン、ウード、クドュムが主要な楽器であり、曲は神秘詩に基づき、音楽はオスマン宮廷音楽の理論に近い要素を有する長い韻律と拍節を持つ点などを解説し、二つの教団における楽器の音声的特徴と身体動作との関係を指摘した。

第4セッションでは、上智大学教授の赤堀雅幸が“Reviewing Anthropology of Sufism: Changing Perspectives”という題目で発表した。人類学的な視点からスーフィズムの儀礼研究の方法論を概観した本発表はまず、心理人類学的アプローチの背景を紹介し、19世紀の研究において儀礼はトランス/エクスタシーや変性意識状態といった用語を通じて理解されてきたことを説明した。次に、通過儀礼アプローチの構造分析に関連する既存の研究に触れ、コミュニティ・ベースのアプローチにおいて「コミュニタス」の概念を中心に議論した。最後に、規律訓練としての儀礼論について、日本の伝統的な「修行」の概念を紹介し、この概念は身体と精神の両面の鍛練を指すため、「儀礼」よりも「修行」という言葉がより適切である可能性を示唆した。

今回のジョイントセミナーは、従来分離されていたイスラーム研究と人類学研究を結びつけると同時に、知識人エリート層による神秘哲学と人々の実践とのギャップを埋める試みを行った。それぞれの発表では、形而上学に限らず、思想的な視点から身体実践に至るまで多様なトピックが取り上げられた。特に日本人研究者側からは、テクスト読解などの古典的な研究手法に限定されない、新たなスーフィズム研究のアプローチを提供できた。この点において、今回のジョイントセミナーはトルコと日本のスーフィズム研究における新たな一歩として意義深いセミナーであった。

(藤本あずさ)

2023年度第1回「穏健イスラーム」研究会 報告

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」の2023年度第1回研究会(「穏健イスラーム」研究会)
【日時】2023年6月11日(日曜日)15:00~17:30
【場所】上智大学四谷キャンパス 2号館6階2-603教室 [ハイブリッド実施]

【報告1】東長靖「インドネシア調査報告」

1.インドネシア班読書会
The Ministry of Religious Affairs Republic of Indonesia, Religious Moderation, Jakarta: Research, Development, Training, and Education Agency, The Ministry of Religious Affairs Republic of Indonesia, 2020, xii+155 ppおよびその原本であるインドネシア語版を、3回に分けて輪読した。
[参加者](五十音順)新井和広、岡本正明、久志本裕子、高尾賢一郎、東長靖

2.インドネシア現地調査
[参加者](五十音順)岡本正明・高尾賢一郎・東長靖(現地からOman Fathurahman)
[期間]1/28-2/5(参加者によって前後あり):共同調査期間は2/3-2/4
[訪問先]ジャカルタ首都特別州
[主要日程]
1/30 Masjid Lautze(老子モスク。中国系のモスク。イマームに聞き取り調査)
1/31 Iik Mansur Noor氏(UIN[Universitas Islam Negeri、国立イスラーム大学]教授)訪問
2/01 Oman Fathurahman氏(UIN教授)訪問
2/02 UNUSIA(Universitas Nahdlatul Ulama Indonesia、インドネシア・ナフダトゥルウラマ大学、1999年創設)訪問(Dr. Fariz Alnizarと面談。教育研究について聞き取り)
2/03 UIN訪問(Conveyプログラム責任者 Ismat Ropi氏に聞き取り調査ののち、Oman Fathurahman氏からModerasi Beragamaについての概要の説明を受けて質疑応答)+プサントレン・アル=ハーミディーヤ(オマン氏が校長)に招かれ生徒たちと交流
2/04 前宗教大臣Lukman Hakim氏らから聞き取り調査
2/06 元ムハンマディア総裁のSyafii Maarifの思想に影響を受けたNPOを往訪、同団体が取り組んでいる若者を対象とした「脱過激化(deradicalization)」トレーニングや、インドネシア国内のキリスト教、仏教、儒教団体との交流の内容につき聴取

3.インドネシア副大統領京都大学来学
現副大統領のMaruf Amin氏が2023年3月8日に来学し、宗教間対話と穏健イスラームに関する講演を行った。本研究分担者の岡本正明が全体の司会を務め、研究代表者の東長靖はコメンテータを務めた。

なお、上記活動の概要については、平和中島財団「アジア地域重点学術研究助成」のウェブページに報告書を掲載している。

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【報告2】和崎聖日「現代ウズベキスタン・イスラームの本流:ムハンマド=サーディク・ムハンマド=ユースフの思想」

本報告は、拙稿(2021)「ムハンマド=サーディク・ムハンマド=ユースフの軌跡:ウズベキスタン・イスラームにおける非党派主義と中道主義の萌芽過程」(『アジア・アフリカ言語文化研究』(Journal of Asian and African Studies)102, 33-62)に基づき、その一部を紹介した。具体的には、ソ連解体後の中央アジアで最も傑出したイスラーム学者と数えられるウズベキスタン東部・アンディジャン出身の上述のムハンマド=サーディク・ムハンマド=ユースフ(Muhammad Sodiq Muhammad Yusuf, 1952-2015)を取り上げた。彼の出自は、クルアーンと預言者ムハンマドのスンナの遵守を特徴とすることで一般に知られるナクシュバンディー・ムジャッディディーヤの導師に連なると言われる。ムハンマド=サーディクは、弱冠 37 歳にして中央アジア・カザフスタン・ムスリム宗務局の第 4 代ムフティー(muftī: 宗務局長)(在任期間 1989-1991)、ならびにソヴィエト連邦最高会議の人民代議員に選出された経歴をもつ。また、ソ連共産党第一書記であったミハイル・ゴルバチョフ(Mikhail Gorbachev, 1931-)(在任期間 1985-1991)の個人通訳を務めたことでも知られる。加えて、1991 年にはウズベキスタン・ムスリム宗務局の初代ムフティー(在任期間 1991-1993)にも選出された。彼の思想の支持者の広がりは、カザフスタンやタジキスタンなどの中央アジア諸国、そしてロシアにまでおよぶ。彼の思想に認められる特徴は、スンナ派イスラームの知と団結力を衰退させるイスラームの政治運動と党派化の拒否、ならびに中道主義(wasaṭīya: 中庸思想)の 2 点にあると考えられる。本報告は、これらのうち後者に焦点を当てるものであった。そのうえで、ムハンマド=サーディクの家族文化と活動の軌跡の一部、説教の内容を主に考察することにより、第 1 に彼の思想を上記のように特徴づけることの妥当性を検証し、それが社会主義圏でのイスラーム学者らとの交流を契機に強化されたことを明らかにした。第 2に、彼の思想を現代イスラーム世界の知的権威たちの思想潮流に位置づけることを試みた。本報告での結論の一部をここに記せば、ハナフィー革新派の学者にして穏健なイスラーム主義者であったムハンマド=サーディクの思想が現代イスラーム世界の知的権威たちの中で、カラダーウィーなど、ムスリム同胞団の穏健派の系譜に位置づけられる可能性が高い、もしくはこの系譜と親和性が高いことを明らかにした。この思想潮流こそが、体制と民衆の双方の側から絶大な信頼と支持を受けている現代ウズベキスタンのイスラーム潮流の本流だと考えられた。

第11回目フランス国立科学研究センター(CNRS)・上智大学イスラーム地域研究所(SIAS)・京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)ジョイントセミナー “SUFISM AND SAINT VENERATION PAST AND PRESENT” 報告

第11回目フランス国立科学研究センター(CNRS)・上智大学イスラーム地域研究所(SIAS)・京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)ジョイントセミナー “SUFISM AND SAINT VENERATION PAST AND PRESENT” 報告

第11回目となるフランス国立科学研究センター(CNRS)・上智大学イスラーム地域研究所(SIAS)・京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)のジョイントセミナーが9月1日にパリで開催された。2019年以来の対面開催であり、参加者たちが有意義な意見交換を行える貴重な機会であった。発表者は日本側から4名、フランス側から2名である。発表プログラムに関して言えば、多岐にわたる話題が提示されたが、その中でも以下の発表が興味深く感じた。Makbule Nur Ayan氏(CNRS-CETOBaC)の発表は、トルコ共和国におけるアフマド・ヤサヴィー(1166年没)の政治的利用を演説等の分析から検討した内容であり、時代や論者によって異なるヤサヴィー解釈の変遷を追ったものであった。また丸山大介氏(防衛大学)の発表は、イスラーム主義者(Islamist)が “Ahl al-Dhikr” というタームによって、如何にしてスーフィーやサラフィー主義者の集団を包括しようとしていたかという試みを考察したもので、興味深い内容であった。セミナーを通じて質疑応答も盛んに行われ、歴史学・人類学・思想研究などの専門分野から様々な意見が出た。今回のセミナーは “Sufism and Saint Veneration: Past and Present” というテーマで開催されたが、これは単に研究対象の時代だけを指したものではなく、スーフィズム・聖者信仰研究の過去と現在を示し、新たな知見を提示するものであった。また、発表者の研究関心はそれぞれであるが、全体としてはスーフィー・サラフィーの関係性を問い直すような試みが多く取られていたことが特筆すべき点である。

(原陸郎)

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【日時】9月1日 9:30-16:30(フランス時間)
【場所】Collège de France – Centre d’études ottomanes Salle Claude Lévi-Strauss, 52 rue du Cardinal Lemoine, 75005 Paris

【プログラム】
9:30-9:45 Alexandre PAPAS (CNRS-EPHE) & Thierry ZARCONE (CNRS-GSRL): Introduction

9:45-10:15 HARA Rikuo (Kyoto University): “Traditionalist Ways of Dhikr: The Case of Ibn Qayyim al-Jawzīya”
10:15-10:30 Rachida CHIH (CNRS-CETOBaC): Chair, Q&A

10:30-11:00 KONDO Fumiya (Sophia University): “From Festivals to Anniversaries: Recent Reconstructions of Mawlid’s Space in Egypt”
11:00-11:15 Rachida CHIH: Chair, Q&A

11:15-11:30: Break

11:30-12:00 UCHIYAMA Chie (Sophia University): “Destructuring the Discours of ‘Islam noir’ Persisting in Senegalese Islamic Education”
12:00-12:15 Thierry ZARCONE: Chair, Q&A

12:15-13:45 Lunch

13:45-14:15 Clara GAUTIER (Université Paris 1 Sorbonne): “Burns and scars: representations of Bektashi self-mutilations in illustrated manuscripts and in various ‘Collection of Ottoman Costumes’ (15th-18th centuries)”
14:15-14:30 AKAHORI Masayuki (Sophia University): Chair, Q&A

14:30-15:00 Makbule Nur AYAN (CNRS-CETOBaC): “Khoja Ahmad Yasavi in Turkey’s political discourse between 1998 and 2022”
15:00-15:15 TONAGA Yasushi (Kyoto University): Chair, Q&A

15:15-15:30: Break

15:30-16:00 MARUYAMA Daisuke (National Defense Academy of Japan): “Who are Ahl al-Dhikr?: Political Appropriation of Sufism and Saint in Contemporary Sudan”
16:00-16:15 Alexandre PAPAS: Chair, Q&A

16:15-16:30 AKAHORI Masayuki & TONAGA Yasushi: Conclusion

Convenors:
Akahori M., Tonaga Y., C. Gautier, Kondo F., A. Papas, Suzuki M., Th. Zarcone

Sponsors:
Institute for Islamic Area Studies (SIAS)
Center for Islamic Studies-Graduate School of Asian and African Studies (KIAS)
Kenan Rifai Center for Sufi Studies (KR)
Groupe Société, Religion et Laïcité, UMR8582 – CNRS (GSRL)
Islam médiéval, UMR8167 – CNRS (Orient et Méditerranée)
Centre d’études ottomanes, Collège de France (CEO)

2023年2月15日 第4回「穏健イスラーム」研究会 報告

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」と平和中島財団アジア地域重点学術研究助成「イスラーム主義に対抗する穏健イスラームの試み――インドネシアの「宗教的穏健化」政策を中心に」の第4回ジョイント研究会(「穏健イスラーム」研究会)
日時:2月15日(水)16~18時
場所:上智大学2号館6階(2-615a教室)[ ハイブリッド実施 ]

【報告1】井上あえか「マイノリティとしての指導者ジンナー」

ムハンマド・アリー・ジンナーはパキスタン建国の父と言われるが、さまざまな点で、インドにおけるマイノリティであった。例えば、ムスリムであったこと、シーア派であったこと(ホージャー派から12イマーム派へ改宗)、パールシーと結婚したこと、イスラームに関心が薄かったこと、ムスリム多数派州で支持されていなかったこと、当時のカリスマ的指導者ガーンディーと対立したことなどである。彼はムスリムが少数派とならず、安心して生きられる社会を求め、いわば非宗教的(政教分離的)な政治家として、ムスリムの利益を代表した。とくに、シーア派というムスリムの中のマイノリティであったことが問題にされず、建国の父となったことは、インド・ムスリムの多様性と、穏健なイスラームの伝統を示唆する可能性があるのではないか。

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【報告2】山根聡「19世紀後半のウルドゥー語資料に見る文学空間と宗教-牝牛保護運動のマスナヴィー」

本報告では、南アジア、特に北インドで19世紀後半になって顕在化したヒンドゥーとムスリムの対立に関し、1880年代初めに刊行されたウルドゥー語の冊子『牝牛の嘆き』を取り上げて、先行研究で言及されてきた宗教間対立の動きに対し、対立の回避を企図する動きがあったことを報告した。
この雑誌はヒンドゥー教の改革団体「アーリヤ・サマージ」系のものでラーホールから刊行されたものである。ウルドゥー語で書かれており、ムスリムが必要以上に牝牛を屠殺する事を止めるように求める内容の記事や詩が収載されている。ヒンドゥー側がムスリムに呼びかけるような調子の記述が多く、中にはムスリムも登場してきてヒンドゥーに同調するような発言をしている。
従来の研究では、19世紀末の牝牛保護運動によってヒンドゥーとムスリムの断絶が深刻化したと語られてきたが、このように平和理に対立を避けようとした動きがあったことは、当時の資料の発掘と、再検討を要することを指摘した。

 

2023年3月29日 第5回「穏健イスラーム」研究会を実施しました

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」と平和中島財団アジア地域重点学術研究助成「イスラーム主義に対抗する穏健イスラームの試み――インドネシアの「宗教的穏健化」政策を中心に」の第5回ジョイント研究会(「穏健イスラーム」研究会)をオンラインで実施しました。
日時:3月29日(水)14時~17時
場所:オンライン                                             プログラム:                                        久志本裕子「「過激」な穏健?―マレーシアにおける「穏健」派の微妙な位置」