2024年度第1回「穏健イスラーム」研究会 報告

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」                                       2024年度第1回研究会(「穏健イスラーム」研究会)
【日時】2024年5月25日(日曜日)13:00~17:00
【場所】京都大学吉田キャンパス本部構内 総合研究2号館4階 AA415(第1講義室)
【報告】内山智絵                                「サラフィーとスーフィーの二分法に基づかないセネガルの「イスラームの領域」を再構築する:イスラーム教育の事例から」
本報告は、穏健なスーフィー教団の影響が強いセネガルのイスラームにサラフィー思想の影響が及んでいるという言説を、イスラーム教育の事例を通じて検証するという問題意識に基づくものである。セネガル政府が策定した学校教科書はスーフィー教団の存在と矛盾しない寛容なイスラームを推進し、サラフィー的な志向のムスリムにも受け入れられる内容であるのに対し、報告者が調査したサラフィー団体の系列学校では一部ではアフリカ的なスーフィズムの慣習を否定する教育を行っている、しかし、後者においても生徒の中には教団に所属する者も少なくなく、インタビュー調査からはさほど矛盾なく共存している様子がうかがえる。また、サラフィーまたはスーフィーと位置付けられるムスリムのインフォーマントの語りは、教団に属するムスリムと属さないムスリムの境界は実際には絶対的なものではなく、その区別は必ずしも重要視されていないことを示唆している。セネガルのイスラームは従来多数派のスーフィーと穏健派のサラフィーという二分法的にとらえられてきたが、「穏健で寛容なセネガルのイスラーム」という意識はサラフィーも含め多くのムスリムにとって受け入れられるものであると推測され、こうした前提からセネガルのイスラーム像を再構築することは有用であると考えられる。