2024年3月18-19日 2024 AFOMEDI Conference”Spaces of Familiarity, Spaces of Difference in the Mediterranean” 報告

 

地中海研究機関アジア連盟(Asian Federation of Mediterranean Studies Institutes, AFOMEDI)第4回国際会議“Spaces of Familiarity, Spaces of Difference in the Mediterranean” 報告書

 

棚橋由賀里・本間流星・森口遥平
第4回目となるAFOMEDI国際会議、“Spaces of Familiarity, Spaces of Difference in the Mediterranean”(地中海における親しみの空間、差異の空間)が、台湾国立の学術研究機関である中央研究院歴史語言研究所にて開催された。コロナ禍以降初となる対面開催であり、3月18日(月)と19日(火)の2日間で計17のパネル・セッションが組まれ、歴史学・考古学・文学・人類学・文献学といった様々な観点から研究発表が行われた。これまでは台湾・韓国・日本の研究機関が中心となってきたが、今回は欧米、中東・北アフリカ、東南アジア、オセアニアと幅広い地域の研究者が参加し、非常に活気に満ちた会議となった。
参加学生の報告書は以下のとおりである。

棚橋由賀里
報告者は、ポルトガルの侵攻に苦しんだ15–16世紀のモロッコを研究対象としているため、中世・近世の地中海における外交、戦争、海賊行為などを扱ったパネルに関心を持った。特に以下の発表が興味深かった。1日目第2セッション“The Limits of Familiarity in Sixteenth-Century Cross-Confessional Mediterranean Diplomacy”におけるRubén González Cuerva氏(スペイン国立研究評議会)の発表“Familiarity beyond Religion? Patterns of Negotiated Exchanges in Habsburg-Hafsi Diplomacy (1535-1573)”は、オスマン帝国に対抗してスペイン・ハプスブルク家とチュニジアのハフス朝が結んだ同盟関係に関して、主に贈り物・書簡の交換や翻訳活動といった形式の交流に光を当てたものであった。両者の緊張関係が、信仰する宗教によってではなく、外交において文書と口頭の会話のいずれを重視するかという様式の違いによって露わになった点が興味深かったとともに、宗教以外の対立軸を考慮する必要性を再認識した。また同日第5セッション“Violence and the Sea in the Medieval Mediterranean”におけるTravis Bruce氏(マギル大学)の“Medieval Maritime Violence and Mediterranean Spiritual Economy”は、中世地中海の海事における受難、すなわち海戦・海賊行為によって略奪や身体拘束を扱ったものである。暴力を被る経験は、キリスト教徒・ムスリム双方にとって、敬虔な信徒が信仰心によって苦難を耐え忍ぶ物語や、神が信徒たちを拘束や虐待から救うために介入する物語を生み出したほか、富裕な者にとっては自らの富を身代金の支払いすなわち同胞救済に擲つという一種の浄化行為を行う機会となったという。苦難の経験を宗教的な文脈でプラスに転換するという現象に関して、“spiritual economy”あるいは“spiritual capital”という枠組みを用いた研究は、本邦の心性史研究では菅見の限り出会ったことがなく、新鮮であった。
報告者は、2日目の第13セッション“Islamic Spaces and Colonial Resistance”において“Social Reform in the 15-16th Centuries Morocco Tackled by the Sufis of al-Ṭarīqa al-Jazūlīya”というタイトルで発表をおこなった。内容としては、ポルトガルの侵攻に苦しむ15–16世紀モロッコにおいて、これまで「スーフィー教団」という枠組みで語られてきたタリーカ・ジャズーリーヤという道統のスーフィーたちの社会改革について、宗教教育・政治参加・慈善活動といったトピックを挙げてその個別性・多様性を論じたものである。コメンテーターのTravis Bruce氏(マギル大学)からは、“Colonial Resistance”というテーマと関連した議論を求められた。報告者は、外部からの征服に対する反応として宗教的な純粋さを取り戻そうとする機運が生じること自体には時代を超えた普遍性があるとしつつも、国民国家の概念が存在しなかった前近代モロッコにおいて、集団的な抵抗を想起させる“Colonial Resistance”という語を安易に当てはめることには慎重でありたいと述べた。
(以上文責:棚橋由賀里)

報告者が特に関心を抱いたのは、1日目の第6セッション“Political Cultures and the Shaping of Spaces”におけるPeter Kitlas氏(ベイルート・アメリカン大学)の発表“Scribal Spaces and Diplomatic Knowledge Production in the Eighteenth-Century Muslim Mediterranean”である。本発表は、18世紀の地中海地域におけるムスリム外交官らの知的・文化的コンテクストを、当時の北アフリカとオスマン帝国に焦点を当てて考察するというものであり、そこでは前近代から近代の転換点という時代の中でムスリム個々人が地中海地域の外交において果たした役割が示された。地中海地域のムスリム外交官らの知的営為を「書記文化(scribal culture)」という枠組みで論じた本発表は、ムスリム地域の外交史研究のみならず、思想・文化研究への幅広い視点をも有していた。
報告者は、2日目の第13セッション“Islamic Spaces and Colonial Resistance”において、“Ashraf ‘Alī Thānavī and Sufi Metaphysics: The Modern Development of the School of Ibn ‘Arabī in South Asia”と題した発表を行い、これまで看過されてきた近代南アジアのイブン・アラビー学派に関して、デーオバンド派の学者且つチシュティー派のスーフィーであったアシュラフ・アリー・ターナヴィー(d. 1943)の著作群に着目して論じた。コメンテーターのTravis Bruce氏(マギル大学)からは、イギリス植民地期という政治的・社会的文脈により関連付けた議論を求められた。それに対して報告者は、ターナヴィーのスーフィー形而上学と植民地期南アジアの政治・社会の密接な関わりを現時点では見出せていないと断りを入れた上で、ムスリム連盟のパキスタン建国運動における晩年のターナヴィーの関与について説明した。
「地中海地域における親近性/相違性の空間」が大きなテーマとして掲げられた今大会では、キリスト教とイスラームを中心に多くの異なる宗教文化が歴史的に交差してきた当該地域において、それら諸宗教が如何なる仕方で政治的・社会的・知的に関わり合い、対立・調和を繰り返してきたのかという点に着目した発表が多かったように思われる。また、地中海には直接的に面していない東・東南アジアを含む広範な諸地域に関しても頻繁に論じられ、「地中海地域」という概念自体に対する再検討の試みが見られた点は、今後の研究の裾野を拡げるという意味でも大きな意義があったと考える。
(以上文責:本間流星)

本学会のテーマは地中海の研究であったが、AFOMEDI運営メンバーである東長靖先生のご厚意で発表の機会をいただいた。私の発表は大会2日目に「大学院生ワークショップ」と題されたセクション内でおこなわれた。10分の発表後、コメンテーターのフィードバック、聴講者との質疑応答というスタイルだった。報告者は、予備論文で論じた前近代南アジアのイスラーム神秘主義思想に関して発表した。北アフリカのイスラーム法学を専攻するコメンテーターとのディスカッション、多様な研究関心を持つ聴講者との質疑応答は、博士予備論文を書き終え、博士論文に向けて学問的関心を広げるという点で有意義だった。本学会は、東アジアや東南アジア、ヨーロッパやアメリカからの60名ほどの参加者がいたが、様々な文化的背景を持ち、多様な研究をおこなう教授や院生と学会中を通じて交流を楽しむことができた。今後、共同研究などに繋げていきたいと思う。また、1日目のTeofilo Ruiz氏(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)によるキーノートスピーチ“In Search of Deliverance: Lived Experiences of Mediterranean Space in the Past and Present”では、同氏の人生が語られたが、出身地のキューバの社会混乱など様々な逆境に置かれつつも、研究し続けたという内容に感銘を受けた。
以下は、報告者が中央研究院に滞在するなかで得た所感である。まず指摘したいのは、構内で多くのインド人研究者を目にしたことである。先日、京大の学内広報誌で「日本および京都大学はインド人学生・研究者の招へいを進めている」と読んだが、自国外の優秀な研究者や学生の獲得競争がアジアでも本格化していると感じた。このことは、前回まではアジアからの参加者のみであったのに対して、今回は世界中からの参加者がいたことと無関係ではないはずだ。また、もう一点報告者が注目したこととして、会場補佐を担当していた学生の英語力の高さが挙げられる。会場内での英語対応や学会後の懇親会での参加者との会話などを耳にしただけだが、いずれも円滑におこなっていた。このことも台湾の大学が国際化に力を入れていることの傍証だと思われる。
(以上文責:森口遥平)

2024年3月18-19日 2024 AFOMEDI Conference”Spaces of Familiarity, Spaces of Difference in the Mediterranean” を開催しました

第4回地中海研究機関アジア連合(AFOMEDI)2024国際シンポジウム”Spaces of Familiarity, Spaces of Difference in the Mediterranean” を開催しました

【Date and Time】March 18-19, 2024

【Venu】】Academia Sinica, Taipei, Taiwan

【Language】English

【Program】(発表者抜粋)

Yohei Moriguchi, Kyoto University (Japan),  “On the theory of ‘waḥdat al-wujūd’ in Muḥibb Allāh Allāhābādī’s ‘Taswiya’ (‘Equivalence’) and its pre-modern South Asian characteristics”

Yukari Tanahasi, Kyoto University (Japan) , “Social Reform in the 15-16th Centuries Morocco Tackled by the Sufis of al-Ṭarīqa al-Jazūlīya”

Ryusei Homma, Kyoto University (Japan), “Ashraf ‘Alī Thānavī and Sufi Metaphysics: The Modern Development of the School of Ibn ‘Arabī in South Asia”

Manami Suzuki, Kyoto University (Japan), “Musical Structure of Islamic Ritual Practice in Turkey: Focusing on the Connection between Circular Motion and Beat Structure of Alevi’s Semah

【主催】Institute of History and Philology, Academia Sinica, Taiwan

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2023年度第3回「穏健イスラーム」研究会 報告

 科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」                                       2023年度第3回研究会(「穏健イスラーム」研究会)
【日時】2024年2月4日(日曜日)13:00~17:00
【場所】京都大学吉田キャンパス本部構内 総合研究2号館4階 AA415(第1講義室)
【報告1】新井和広                                     「ハビーブ・ウマルとインドネシアの穏健イスラーム」
 本報告ではインドネシアの穏健イスラームにおけるアラブ系の活動について、ハドラマウト(南アラビア)のタリームで宗教学校を運営しているウマル・ビン・ハフィーズ(ハビーブ・ウマル)の活動に焦点を当てて論じた。ハビーブ・ウマルは1990年代以降にハドラマウトとインドネシアの人的交流が復活した後、インドネシアで最も良く知られるようになったハドラマウトの宗教者である。彼がタリームに設立した宗教学校「ダール・ムスタファー(預言者の家)」には多くの東南アジア(インドネシア、マレーシア、シンガポールほか)出身者が学び、卒業生たちは帰国後独自にダアワ(イスラームへの呼びかけ)を行っている。またウマル本人も毎年インドネシアを訪問し、ジャワを中心とする各地で大規模なダアワ集会を開催している。                         ハビーブ・ウマルの思想の特徴はハドラマウトの伝統的な宗教活動の継承、啓示・スンナの重視、ダアワの強調であるが、その中で穏健・平和へのメッセージが本プロジェクトと最も密接に関連している。具体的には集団間の対話、対話する相手への敬意、信徒の内面などを重視している。彼の著書『イスラームにおける中庸(al-Wasatiyya fi al-Islam)』は2003年6月1日にハドラマウト大学教育学部で行った講演の記録だが、インドネシア語でも『穏健な宗教:イスラームの教義の真実の再興(Agama Moderat: Menghidupkan Kembali Hakikat Ajaran Islam)』というタイトルで出版されている。そこでは「穏健」をシャリーアの本質を理解すること、啓示の本質と位置づけ、さまざまなテーマに従って穏健とは何かを論じている。全体としてはイスラームを穏健な宗教と位置づけているが、そこにウマル独自の理論を見つけることは困難である。               ウマル自身は政治や政府の政策に直接関わることを避けているし、弟子たちにも政治に関わることを禁じている。しかしウマル自身の言葉は事あるごとに周りに解釈され、選挙運動などに利用されている。それはウマルが曖昧かつ常識的な言葉で語っていることに因っている。いずれにしてもナフダトゥル・ウラマ(NU)とも近いウマルは今後もインドネシアの(穏健)イスラームに一定の影響力を及ぼしていくであろう。
【報告2】三沢伸生                                                                                            「トルコにおける「ウルムル・イスラーム( ılımlı İslam )」の検討」               
 本報告はトルコにおける「穏健イスラーム」が言説的にどのように認識・共有されているのかを、新聞メディアでの使用事例数の経年推移からの検証作業を報告するものである。そのためにアメリカおよびイギリスの新聞メディアの、Islamic Fundamentalism、Moderate Islam、さらには日本の『読売新聞』の「穏健イスラーム」の使用頻度の経年推移をみた。アメリカでは2002年以降になってModerate Islamの使用が始まり急増している。すなわち現在の「穏健イスラーム」の言説はアメリカで形成、世界に敷衍し、やがてトルコでも訳語として「ウルムル・イスラーム」概念が用いられだした。しかし、社会的基盤は弱く、むしろ政治的な意図で用いられているのが現状と理解できる。今回の調査をもとに量的調査に満足せず、今後は質的調査も実施したい。

2024年2月4日 2023年度第3回「穏健イスラーム」研究会を実施しました

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」(22H00034)による2023年度第3回研究会(「穏健イスラーム」研究会)を実施しました。
【日時】2024年2月4日(日曜日)13:00~17:00
【場所】京都大学吉田キャンパス本部構内 総合研究2号館4階 AA401(第1講義室)
【プログラム】
新井和広「インドネシアの穏健イスラームに対するハドラミー・アラブの影響:ウマル・ビン・ハフィーズの活動と思想から」
三沢伸生「トルコにおける「ウルムル・イスラーム( ılımlı İslam )」の検討」     東長靖「2023年8月トルコ調査報告」

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2024年2月2日 鹿島学術振興財団「イスラームの宗教施設と都市空間との融合:モスクに集うムスリムたちの日本社会との共生」現地調査を実施しました

鹿島学術振興財団「イスラームの宗教施設と都市空間との融合:モスクに集うムスリムたちの日本社会との共生」現地調査を、2024年2月2日に静岡県静岡市と愛知県名古屋市のモスクで実施しました。

2024年2月12日 Michael Leezenberg教授(アムステルダム大学)講演会のお知らせ

このたび、上智大学イスラーム地域研究所の山口昭彦先生によりアムステルダム大学哲学科のMichael Leezenberg先生が招へいされ、京都大学人文科学研究所およびケナン・リファーイー・スーフィズム研究センターとの共催で以下の講演会が開催される運びとなりました。
Leezenberg先生は広く哲学・思想をご専門とされておりますが、クルド研究の分野でも多岐にわたる(言語、文学、思想、宗教、政治など)業績を上げていらっしゃいます。今回は、「イスラーム世界の近代化における原動力としてのナクシュバンディー教団とワッハーブ派の対抗関係」と題して、19世紀以降のマウラーナー・ハーリドを創始者とするハーリディー=ナクシュバンディー教団の形成とワッハーブ派との関わりについて論じられます。

https://www.uva.nl/en/profile/l/e/m.m.leezenberg/m.m.leezenberg.html#Publications

対面での開催となりますが、多くの方々のご参加をお待ちしております。参加を希望される方は、下記URLの参加申込フォームにご記入ください。

日時:2024年2月12日(月)15時から17時
会場:京都大学人科学研究所本館4階大会議室
https://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/access/access.html
講師:Michael Leezenberg (University of Amsterdam)
題目:Naqshbandi-Wahhabi rivalry as a major force in the modernization of the Islamic world
参加申し込みフォーム:https://forms.gle/3tu58nKv6B6yTr917

要旨:Everybody is familiar with the importance of Muhamad ibn ‘Abd al-Wahhâb and the Wahhâbî movement for the development of Islam in the modern world. Far less well known are the Kurdish-born Mawlana Khalid al-Shahrazori and the Khalidiyya branch of Naqshbandi Sufism he created and spread. Thus, Mawlana and his movement are completely absent in standard works on ‘modern Islam,’ like John Voll’s 1994 Islam: Continuity and Change in the Modern World and, more recently, Ahmed Dallal’s 2018 Islam Without Europe: Traditions of Reform in 19th-Century Islamic Thought. Yet, reformist Khalidi-Naqshbandi Sufism was arguably a major factor in 19th- and 20th-century developments in the Ottoman empire and its successor states. Moreover, we gain a better understanding of Mawlana Khalid by exploring not only his enduring legacy in the post-Ottoman world, but by also paying attention to his specifically Kurdish backgrounds.
In this presentation, I will briefly trace the character and importance of Khalidi-Naqhsbandi Sufism in the 19th-century Ottoman empire and beyond, and explore to what extent it was driven by a specifically anti-Wahhâbî animus. In conclusion, I will briefly discuss whether and how these movements may be seen as marking distinctly ‘modern’ forms of religiosity.

お問い合わせ先:yamaguci[at]sophia.ac.jp

Lloyd Ridgeon先生講演会 “Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī” 報告

講演会”Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī

【日時】1月16日(火)16時~18時
【場所】京都大学本部構内総合研究2号館4階 会議室(AA447)

【プログラム】
Dr. Lloyd Ridgeon (University of Glasgow) , “Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī”.

2024年1月16日に、京都大学吉田キャンパス総合研究2号館4階会議室において、グラスゴー大学のロイド・リッジョン博士による講演会が開催された。講演タイトルはRūmī’s criticism of Awhad al-Din Kirmani’s shāhid-bāzīである。ケルマーニーはシャーヒドバーズィー (shāhid-bāzī)を重視したことで有名なスーフィーであるが、シャーヒドバーズィーはしばしば美少年愛と同一視される。ケルマーニーより半世紀ほど遅れて活躍したスーフィー詩人ルーミーが、シャーヒドバーズィーをどう評価していたかを、リッジョン博士は彼の詩を用いて考察した。この用語には、美少年愛という世俗的な意味のほかに、イスラーム法学における証人、スーフィズムにおける「神の美を観照する人」という意味があり、ルーミーは一般に後者の解釈をとったと考えられるが、前者の可能性も捨てきれないとした。なお、博士は現在ルーミーに関する新しい著作を準備中で、本発表の内容はその一部となる予定とのことであった。

2024年1月16日 Lloyd Ridgeon先生研究講演会”Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī”を開催しました

グラスゴー大学のLloyd Ridgeon先生による研究講演会”Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī“を開催しました。

【日時】1月16日(火)16時~18時
【場所】京都大学本部構内総合研究2号館4階 会議室(AA447)

【プログラム】
Dr. Lloyd Ridgeon (University of Glasgow) , “Rūmī’s criticism of Awḥad Al-Dīn Kirmānī’s shāhid-bāzī”.

【共催】
京都大学ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センター
科研費・基盤研究(B)「「スンナ派」と「シーア派」:自己意識と相互認識のイスラーム史研究にむけて」(研究代表:森本一夫、23H00674)
慶應義塾大学商学部新井和広研究室
京都大学イスラーム地域研究センター

【後援】
科研費・国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))「スーフィズムの総合的研究-思想・文学・音楽・儀礼を通して」(研究代表:東長靖、21KK0001)

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2023年度第2回「穏健イスラーム」研究会 報告

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」                                       2023年度第2回研究会(「穏健イスラーム」研究会)

【日時】2023年11月12日(日)
【場所】オンライン

【報告1】佐々木拓雄「インドネシアのイスラームにおける宗教多元主義―カルティニからヌルホリス・マジッドまで」

宗教間調和が課題であるインドネシアのイスラームにおいては、超越的な神のもとでの宗教の多元性と平等性を唱える「宗教多元主義」が一つの思想的潮流として展開してきた。報告では、既発表の論文(佐々木拓雄「宗教間の調和のために−宗教多元主義を唱えるインドネシアのムスリム知識人」『久留米大学法学』80号、2019年)をもとにその展開をたどり、いくつかの考察を加えた。
インドネシアのイスラームにおける宗教多元主義は、その系譜をオランダ植民地時代のカルティニまで遡ることができ、スカルノによって建国の理念にも投影された。1960年代末以降、それが一部の「ムスリム知識人」によって継承されたことがさらに重要で、その代表的人物としてアフマド・ワヒブ、ジョハン・エフェンディ、グス・ドゥル、ヌルホリス・マジッドなどがいる。その知的営みの背景にスハルト政権による庇護が存在したことは否定できないが、彼らの思索そのものの深さゆえに宗教多元主義が生き長らえてきたという側面もあるだろう。
考察・検討の際に焦点となったのは、ヌルホリスによる「クルアーンに依拠した」宗教多元主義の唱導である。大胆な試みでありながら、それは、Thomas Bauer, A Culture of Ambiguity (New York: Columbia University Press, 2021)などが指摘するところの「テキスト(文字)に依拠して単一の答えを導きだそうとする」西欧近代由来の思考様式に準じてなされるものだともいえ、イスラームが元来備えていたという「曖昧さ(多元性)の文化」や宗教多元主義の可能性そのものを狭めるリスクを孕んでいる。一方で、Bauerらの近代イスラーム批判についての検証はまだ十分でなく、それは今後の課題となる。

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【報告2】赤堀雅幸「穏健イスラームとイスラーム穏健派の間:『イスラームの人類学』とフィールドワーク」

タラル・アサドの「言説伝統」の概念を受けて、現地調査に基づく民族誌的記述に言説伝統概念を活かす可能性について、エジプト西部砂漠のベドウィンの3人の人物を取り上げて論じた。近しい親族である3人が、公教育を受ける中で「正しいイスラーム」をめぐって異なる姿勢を取りつつ交流する様子や、1993年と2011年という時間の経過とともにイスラームへの姿勢も変化する様子に目配りをした。これを踏まえて、現実の言説伝統形成の場がきわめて流動的に形成されると同時に、イスラーム急進派のみではなく、イスラーム穏健派もまた一個の言説伝統を作り出す規律訓練的な権力作用としての側面をもち、それが参照する理念、あるいは現実としての「穏健イスラーム」とは何であるかについても検討すべきであることを提言した。さらに、イスラーム急進派に対する他律的な運動としての性格がイスラーム穏健派に見られ、結果として宗教的ナショナリズムなど、イスラームそのものの正しさとは異なる方向性がそのなかに胚胎されがちな点も指摘した。不十分な発表ではあったが、幸いに多くの質問やコメントが得られ、とくに「穏健」に変わり「中道」概念を用いるという可能性の議論は、二元的な枠組みを三元的に捉え直す意味も含めて重要と思われた。

 

2023年11月12日 2023年度第2回「穏健イスラーム」研究会を実施しました

科研基盤A「非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から」(22H00034)による2023年度第2回研究会(「穏健イスラーム」研究会)をZoomによるオンライン形式で実施しました。
【日時】2023年11月12日(日)
【場所】オンライン
【プログラム】
赤堀雅幸「穏健イスラームとイスラーム穏健派の間:『イスラームの人類学』とフィールドワーク」
佐々木拓雄「インドネシアのイスラームにおける宗教多元主義―カルティニからヌルホリス・マジッドまで」
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